半導体のサプライチェーンには
落とし穴がある

 しかし、半導体にはこのタイムラグだけではなく、さらに複雑な問題が生じています。それが2番目の要素のサプライチェーン問題です。

 先ほど、SUMCOが需要の増加に合わせて2287億円を投下して工場を新設するという話をしました。これは半導体を構成する主要素材である「シリコンウエハー」の世界的な不足を受けた、半導体原料の供給量を増やすための投資です。素材と同様に、半導体自体を製造する機械も輸出が盛んになっています。

 結果として、まず半導体製造プロセスの中で、ウエハー素材に回路を焼き付ける“前工程”と呼ばれる部分から、需給ギャップが解消されることが期待されます。

 一方で、自動車メーカーや家電メーカーのようなサプライチェーンのエンドユーザーから見ると、半導体不足はむしろ“後工程”と呼ばれる組立工程を担う国々で起きています。例えば、ベトナムやマレーシアの電子機器関連の工場の稼働が低下しています。つまり、現在の半導体不足に強く作用しているのは、どちらかというと前工程ではなく、後工程の目詰まりなのです。

 なぜ後工程を担う工場の稼働が低下しているかというと、従業員が確保できないからです。そもそも、これらの工場はコロナ禍で自動車メーカーなどからの発注キャンセルを受けて大幅な減産を決行したわけです。その際、外国人労働者は母国に帰ってしまっているのですが、以前のように海外から自由に入国できるようにならないと、工場がフル稼働できる人員が確保できないというわけです。

 さらに、完成した部品や半製品を届けるためのグローバルな物流にも問題が起きています。コロナ禍により荷役作業員の人数が減少したり、コンテナ不足が発生した結果、港湾の処理能力が世界規模で下がり、遅延などの影響が出ています。すると、どうしても食料のような日持ちしない製品の通関が優先され、半導体関連商品は港の倉庫に山積みになってしまうわけです。

 世界で最も半導体を購入している国は、世界の工場でもある中国です。しかし、中国の半導体自給率は10%台半ばで、半導体の供給の大半は海外に頼っています。そして、日本で販売される工業製品の多くが中国の生産に依存しているわけなのです。

 現代のようにサプライチェーンがグローバルにわたって広がり、しかも相互に強く依存している世界では、サプライチェーンの目詰まりは全体プロセスの中で増幅されます。ほんの少しのずれが、大きなずれに発展してしまうのです。

 ムダを無くして効率化を図るため、多くのメーカーは生産能力に合わせて半導体部品の発注量を細かく調整しています。しかし、この工夫が裏目に出ているのです。余分な在庫を持たずに発注量を細かくコントロールした「つけ」が、増幅された需給ギャップとして今、自分に跳ね返っているというわけです。