【質問5】
「日本の美意識」が何かというのは、
それは固定観念にはならないのか?

世界をよりよいものにするために、私たちがいますぐできる、ある行動とは?京都伝統工芸の若手経営者6人からなるユニット「GO ON」が主催する「CRAFTS NIGHT」のイベント会場風景

山口 後ろのほうから手が挙がっていますね。どうぞ。

Q 貴重なお話をありがとうございました。細尾さんの著書を読ませていただいて、すごい基本的な質問なんですけども、「日本の美意識」というのが何かって考えたときに、そこがなんか固定概念に陥りがちなんじゃないかなあと思っています。それは、おのずと出るものなのか、やはり日本ってこういうもんとして見られているとか、歴史的なこととかを意識されているのか、教えてください。

細尾 ありがとうございます。非常に深い質問ですね。確かに日本の美意識がなんなのかって、私自身も常に自問自答している部分であり、じゃあそれが1個これですっていうものがあるのかというと、たぶんいろんな要素があるのかなとは思います。

 例えば着物と洋服の違いでいうと、着物は型で着て、素材に体を合わせていくとか、洋服は切り刻んで体に合わせていくという部分では、やっぱり何か調和というのがキーワードとしてあるんじゃないか。これだけ自然が豊かだったり、四季のものを取り入れていくような習慣、そこに美を求めるといいますか。その物だけが美しいんではなくて、その調和してるところを含めて美しいという思うというか。開化堂さんのお茶筒が100年後も使われ続けて、そのときは自分はもう生きてないですけども、それが孫の代でも使われているというのが美しいわけですよね。なんかそこの部分が自分の中では引っかかってるところではあります。

 ただ、それも常に変わってくるものかもしれないですし、自分自身も日本の美意識ってなんなのかっていうのは、常に問うている感じです。

司会 山口さんのほうは、いかがですか。

細尾 そうですね。山口さんの意見を聞いてみたいですね。

山口 よくわからないんですけどね。純粋に審美的な側面、例えば西陣織の場合でいうと、見た目のなんとか、あとは手触りみたいなあれですよね。五感に訴えかけられる、ちょっと言葉は生々しいですけど、官能の部分の美意識の話と、ある種の理知的な側面ってあると思うんですよね。理知的な側面っていうのは、例えばどういうつくられ方をしてるのかとか、どういう経緯で開発されてきたのかとか、どういう職人さんがどういうふうにつくってるのかとか、いまの社会的な文脈で言うと、環境に対するどういう負荷が与えてるものなのかっていう。

 ですから、日本の美意識というと二つあると思うんです、美意識の捉え方っていうのは。見た目とか手触りといった。じゃあその見た目とか手触りといったものに、何か日本の美意識っていうことでひとくくりにできるものがあるかというと、僕はなんかそれはあんまりないんじゃないかと思うんですね。例えば、究極的には例えばお能っていうものがありますよね。お能が表現してる世阿弥が言った幽玄の美というものと、歌舞伎で表現される「傾く(かぶく)」美っていうんでしょうかね。というものは、やっぱり何かひとくくりにできるかといったら、そこに通底するものってちょっとないんじゃないかなと思うんです。

 官能性とか色彩とか触感、あるいは五感に訴える部分で言うと、日本の美意識というのはダイナミックレンジの広いもので、何かそこにパチッと狭いものを当てちゃうとおっしゃるとおりで、なんかそれが固定観念化してしまうと思うんですね。
 ですから、西陣織もものすごくいろんな表現の柄あって、めっちゃくちゃわびた感じの渋いのもあれば、めっちゃめちゃかぶいた感じのもあるじゃないですか。一方で、つくられ方とか、どういうものがいいのかっていう観念の部分に関していうと、そこはなんかもしかしたらおっしゃられる何か日本的なものっていうのは、あるかもわかんないですね。

 例えば、新品が必ずしもいいんじゃないっていうのは、けっこういろんな領域に共通してる要素がありますよね。時間がたてばたつほど情報量が増えていって、本人にとっての意味的な価値も増えていくとか、究極に言うと金継ぎ(きんつぎ)とかね、ああいったものもそうだと思うんですけども。だから新品でピカピカなものがいいとか、便利で機能的なものほどいいっていうのじゃない、そのいくつかの観念的な部分での価値の捉え方というのは、もしかしたら日本的な美意識ってのがあるのかもわからないですけども。いま言葉にするとそういう、僕が例えば挙げたこういったものなのかなと思いますけど。でも逆になんかいい、考えさせられるいい質問をいただいた。どうもありがとうございました。

細尾 この美意識とか、日本っていうこと自体も、何がじゃあ日本なのかみたいなところも非常にあいまいだからこそ、人生懸けて問えるテーマなのかなという気もしてます。

山口 先ほどの、伝統芸能を伝統として守っていくっていうことにもかかわると思うんですけども、例えば、西陣だって長い時間軸で考えてみると、かなりイノベーションが近年に起きてますよね。

細尾 一番のイノベーションは、150年ほど前にジャガード織機を持ち込んできたことです。

山口 そうですよね。ただ守ってるだけじゃなくて、150年って2世代ぐらいの時間軸ですからね。大きなイノベーションが起こってるわけで、僕たちが文化とか伝統といったときに、それって本当に日本はいま皇紀2681年ですからね。もう3000年近く続いてる国なんですけれども、その中でじゃあほんとにずっと同じようにつくられてきたのかっていったら、ものすごいやっぱり中国から入ってきたものでイノベーションが起こったりとか、フランスから入れられた織機の技術で革新が起こったりとかしてるわけで、そこの文化と革新、伝統と革新みたいなものの捉え方っていうのも、けっこうそう単純には捉えられないかなというふうには思います。

細尾 そうですよね。でも、それだけ過去に遡れるレンジがあるということは、それだけ未来を考えられるレンジがあるということでもあるので、そこは活用していかないとと思いますね。

山口 ほんとそうだと思います。

細尾 ありがとうございました。

司会 ありがとうございました。そろそろお時間となりました。まだいろいろとお伺いしたいことがいっぱいあったんですけども、細尾さんの本に書かれた書き言葉、そこにはない今日の話し言葉にはある何かというのが、何か工芸らしいそんな感じが今日の時間の中にはあったんじゃないかなと感じました。まだいろいろお伺いしたいこともいっぱいあるかと思うんですけれども、これまた自分の中で次に生かしていただけたらなと思います。本日は山口さん、細尾さん、ありがとうございました。

山口 どうもありがとうございました。

細尾 ありがとうございました。

おわり