【質問4】
日本がこれから元気になっていくために、
私たち1人ひとりにできることは?

司会 もう一つ、オンラインでお二人に質問が来ています。「失われた30年といわれ、日本経済の先行きに明るい展望が見えにくい状況ですが、日本がこれから元気になっていくために、私たち1人ひとりにもできることもあると思います。その点について、お2人から何かヒントをいただけるとうれしいです」というご質問が来てます。

世界をよりよいものにするために、私たちがいますぐできる、ある行動とは?細尾真孝(ほそお・まさたか)
株式会社細尾 代表取締役社長 MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事 株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。

細尾 これは著書の中でも書かせていただいていますけれども、やっぱりすべての人が僕はクリエイターだと思っています。芸術家のヨーゼフ・ボイスの話じゃないですけども、ヨーゼフ・ボイスは「リンゴの皮1個むくのでも、全部これは芸術になりうる」と言っています。つまり、すべての人がクリエイターになったときに、社会が大きく変わる。彼は「社会彫刻」という考え方も提唱されてますけど、まさにすべての人はクリエイティビティを持って、創造していくと。それが僕は人間だと思いますので、そういう意味ではクリエイターって一部のデザイナーとか、限られた人ではなくて、皆さんそれぞれが美意識をもって行動したとき、皆さんがクリエイターになるのだと思います。何か物をつくるとか、そういうのだけじゃなくても、数学者が見る美の山というのはあると思いますし、政治家が見る美の山というのもあるかもしれない。そういった美意識を持った行動をとったときに、すべての人はクリエイターになるんじゃないかと。そうなると、社会は大きく変わるんじゃないかと思っています。

山口 いま細尾さんがおっしゃられたヨーゼフ・ボイスの社会彫刻っていうのは、アーティストとか職人さんは物をつくるんですけど、ビジネスパーソンは普通に仕事をする。でも、そのビジネスパーソンが仕事するのだって、その先になんかしら世の中が変わる営みになるわけで、だとしたらどんな世の中になるのかっていうのを考えながらちゃんと動いてほしいし、それが結果的にいい世の中にならないんだったら、そういう仕事はあんまりやっちゃいけないんじゃないのっていうことでもあるわけですよね。

細尾 そう思います。

山口 ですから、世界をよくする仕事をしようっていうのはよくいわれるんですけども、じゃ「それって何?」って、なかなかよくわからないという人もたくさんいる。でも、逆に言うとそれがわからないんだったら、せめて世界を悪くする仕事はやめようという考え方もあるわけです。それで世界を悪くする仕事はやめようとなると、じゃあ「悪くなるってどういうこと?」っていろいろ難しい側面があるんで、哲学するしかないんですけども。

 もう一つが仕事っていう場を離れて、すごく大事だなと思っているのが、生活者としてのアクションが社会彫刻にもつながっているっていうことです。端的に言うと、便利で安ければいいっていうことを全員が考えて、そういうものばっかり買ってしまうと、やっぱり工芸とか、非常に美意識を持って丁寧につくられたものっていうのは生き残れないんですよね。そういったものっていうのは、場合によってはちょっと値段が張ったりするかもわからない。これは別にそういうものを無理に買ってくれっていうことではなくて、自分の経済的な状況に応じて、それぞれが判断すればいいと思うんですけども、自分がどういう消費行動をするかによって、結果的に100年後に残る職人さんとか会社っていうのは、決まるっていうのを意識として持つのは大事だなと。消費アクティビズムっていうことが最近いわれている。消費行動でもっと世の中を変えるということができるんだっていうことですよね。