岸田首相の主張が
「どんどん抽象化」している事情

 そもそも今回は政権交代は難しいと想定される中なので、実現可能性を突き詰めなくてもいいという意味で、野党案の方が魅力的に映るのは仕方ないかもしれませんが、むしろ注目すべきは“岸田首相の主張がどんどん抽象化していく”という現象です。

 現在の選挙戦で岸田氏は「新しい資本主義」を掲げ、前政権との違いについては「聞く力」を全面に押し出してアピールしている様子です。しかし、何をするのか具体案を示す場になると口をつぐむかトーンダウンしてしまう。ここが秘密解明のポイントで、要するに岸田政権は具体案を口にできないというメカニズムが見え隠れしています。

 岸田首相は、自民党の名門派閥である宏池会のトップでもあります。この宏池会が名門と呼ばれるゆえんは、歴代トップが政策通だとされてきたことです。ところが宏池会に対しては悪口もあって、要するに公家集団であって政争には弱いというわけです。

 自民党の本質は数と腕力です。実力者と言われる有力政治家は、腕力で党内の声を抑え込むことができる。一方で、弱い立場の与党政治家たちはお互いに結束することで数を確保することで対抗してきました。今回誕生した岸田政権は後者の出自です。

 そして数を頼りに総裁選を勝ち上がるプロセスでは、当然のことながら貸し借りで党員の支持を借りまくる必要が出てきます。だから政権を握った段階で、返さなければならない借りが山のように存在する。これは、日本に限らず西側諸国の政治家のリアルです。