自民党の派閥内で見え隠れする
貸し借りの力学とは?

 今回自民党の各派閥が、貸しをつくりながら岸田支持に回った最大の利害が、「世代交代を阻むこと」でした。河野太郎、高市早苗、野田聖子各氏のいずれの候補が総裁になっても、政治家の世代交代が進んでしまう。貸し借りが効く岸田総裁誕生なら党幹部の若返りを阻止できる。だから岸田総裁が選ばれ、麻生太郎副総裁、甘利明幹事長が誕生したというのが、岸田政権誕生時の重要な力学でした。

 ですから、これから先も岸田首相が返さなければならない借りは、守旧派の利害の維持です。実際、総裁選中の岸田候補(当時)が自民党の機関紙を通じて建設票と農業票を意識した政策を主張していると報道されました。こういったものが総裁候補としての岸田文雄氏が党に対して公約した「分配」の約束だったわけです。

“首相の椅子に座るための借りでがんじがらめになったがゆえに、自派閥から官房長官を起用することさえできなかった”と、岸田首相は政権誕生時にささやかれました。そして旧世代の政治家たちの借りに応えるためには、基本線としてはこれまで決まってきたことを変えないことが重要です。

「聞く力」でいろいろな人の話を聞きながら、自分の持論はひっこめる。これまでの政策を踏襲しながら、ラベルだけ「新しい資本主義」と貼ってみる。そのような政策をとっているようにどうしても見えてしまう裏には、大人の事情がどうやら存在しそうだということなのでしょう。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)