ミスター・マーケットに惑わされないための
シンプルな方法

 だが、実際にはミスター・マーケットの誘惑に打ち勝つことはそれほどたやすいことではない。他人からの誘惑であれば断るのはたやすくてもミスター・マーケットというのは自分の心の中にいる存在なので、常に自分の心との戦いになるからだ。

 だとすれば、一体どうすればいいのだろう。最良の方法はマーケットを見ないことである。相場の動きを見ているとどうしても心を動かされやすくなることは避けられない。したがって、あらかじめ自分なりの投資ルールを決めておき、普段はマーケットの動きを見ないことが一番効果的だろう。

 例えば「売買タイミングを気にせずに毎月定期的に購入するドルコスト平均法での投資」や「一定の水準まで下落すればそれ以上の損失を防ぐために自動的に損切りをする、ロスカットのルール」など、いずれもこれが絶対という方法ではないが、少なくとも日々訪れるミスター・マーケットに誘われるままに売買を続けるよりはずっと良い結果が出てくるはずだ。

 投資というものは常に将来の不確実さと向き合っていかなければならないものだから、心理的にはどうしても大きな不安を抱えざるを得ない。だからこそ、そんな不安を増幅するようなミスター・マーケットとの付き合い(短期的な価格変動を取りにいく)はできるだけ避ける方がいいのだ。

 もちろん、ルールに固執しない方がいいという考え方もある。マーケットというのはルールにこだわらず、柔軟な頭と発想で臨機応変に対応すべきだと言う人も多い。それもある程度事実ではあるが、あくまでも基本的なルールを持った上での話である。一定のルールを作ってそれに従うということは別に柔軟に対応することと矛盾するわけではない。

 このところ、市場には頻繁にミスター・マーケットが出没しているようである。週替わりで上昇と下落を繰り返す相場環境がしばらく続いているが、それらのほとんどは市場のノイズにすぎないと考えるべきだろう。それらの動きに対する解説もそのほとんどが後講釈にすぎないことが多い。自分の運用方針を決めておけば後は放ったらかしておく方が、結果は良くなると考えるべきだと思う。

(経済コラムニスト 大江英樹)