日本では日銀が30年前に総量規制をしてバブルを潰して、失われた20年を招いた。現在も日本経済はデフレ基調から抜けきっておらず、景気過熱を冷やす手段として総量規制は劇薬であることがわかる。

 金融市場が発達していない中国においては、不動産に投資資金が集中しやすい。さらには中国経済が高い成長率を維持し続けていることもあり、不動産投資が投機化してバブルが常態化しており、大都市の中間層が手を出せないレベルで不動産価格が高値をつけ続けた。

 中国では「男は家を持って一人前」という考え方が根強い。結婚するための条件として持ち家があることが挙げられることは今日でも少なくなく、バブル化した不動産価格に徐々に人民の不満が鬱積(うっせき)していた。

 中国社会を安定させるためには、徐々に厚みが増している中間層の不満をいかに抑えるかが重要になっており、庶民人気に支えられている習近平指導部としても、不動産価格を抑えることが重要な課題になっていた。

 こうした中、中国当局がおこなった融資規制は、大方の予想どおり大きな影響を与えた。これまで投機化していた不動産市場が一気に冷え込み、不動産企業が次々と経営不振に陥っていった。

 特に世界的な不動産企業である恒大集団のデフォルト懸念が強まると、回復しつつあった世界経済の懸念材料として、新たな中国経済の危機になりかねないと意識されるようになっている。恒大集団がデフォルトに陥る可能性は非常に高いが、重要なのはそれが恒大集団の崩壊だけにとどめられるかどうかである。

 今のところ、習近平指導部は恒大集団を救済する構えを表だって見せていない。恒大集団の大きさを考えると、2021年1月に破綻して、解体して「残せるところを残す」というやり方で処理した海航集団のような慎重な処理が適切だろうが、こと不動産高騰に不満を持つ人民の気持ちを考えると、あからさまに救済に入ると人民からの反発を生みかねず、安易な救済はできないのだと考えられる。