人材教育のベースになっている“経験学習理論”
永田 5つのポイントのなかに「経験学習」という言葉が出てきました。企業において人が成長する要因としては「経験が70%、上司の指導が20%、読書・研修が10%」であり、良質な経験が最も大きな成長の要因になるという考え方が、経験学習のベースにありますね。御社では、新入社員の経験学習をOJTリーダーが支援するということでしょうか?
秋山 経験学習は、実際に仕事をしたうえで、「なぜ成功したのか?」「なぜ失敗したのか?」を内省し、深く洞察することから自分なりの教訓を導き出します。そして、その教訓を生かしてさらに上のレベルの仕事に挑戦し、その成果についてまた内省し……と、繰り返しながらスパイラルアップしていきます。これが、いわゆる「経験学習をまわす」ということですね。このサイクルを入社したばかりの新入社員が自力でまわすのは難しいので、OJTリーダーが1年間かけて導いていくのです。
永田 なるほど。そもそも、なぜ経験学習を導入されたのですか?
秋山 もともと、当社では新人育成者向けの指導というものがまったく行われていませんでした。上司にあたる人たちも習ったことがないので、自分がされたことと同じことをするしかない。つまり、「自己流」ですね。果たしてこれでいいのだろうか? やはり人材教育の基本というものに則った方がよいのではないか?――そう思ったのが起点です。そのときに、人材教育のベース、いわゆるOSみたいな部分が経験学習であると思い至ったので、まずはそこからやっていこう、と考えました。
永田 教える側に専門的な知識がないということがネックだったのですね。そこで、教える側に人材育成の基本である経験学習理論をしっかり理解してもらったうえで、新入社員がその経験学習サイクルを効果的にまわせるようにサポートをしてもらう、と――この新人教育には丸1年かけるそうですね。スケジュールは、大半のグループ会社は6月までは現場実習、7月1日に正式に配属が決まるとうかがいました。新人育成のプログラムは4月から始まるのですか?
秋山 はい。4月のあたまに、マナーや人格形成の指導を行います。組織人としてこれから生きていくために、まずは学生と組織人の違いをしっかり理解してもらうのです。仕事のスキルは放っておいても現場で身につくものですが、人格にまつわるものはきちんと指導を受けなければ身につきません。各社で新人教育を担当するOJTリーダーを決めていただくのは、新入社員が正式配属される直前の6月末です。OJTリーダーには最初に集まっていただき、「経験学習とは何か」を改めて説明し、OJTリーダー自身の振り返りをしてもらいます。そうすると、自分も経験を通じて成長してきたことが理解でき、納得したうえで経験学習のサポートができるようになるのです。新入社員に対しては導入研修を行い、「なぜ経験学習をするのか?」ということを事前に理解してもらいます。
永田 たしかに経験学習は人が育つための基本理論ですが、教える側も教わる側もその意義を理解していなければ効果が見込めません。単に「内省してください」と言われて内省するだけでは何も身につかないでしょう。「なぜ内省が必要なのか?」という理論を理解することが重要ですね。