経験学習サイクルを効果的にまわす「経験学習ノート」

永田 御社では、経験学習をまわす習慣をつけるために、オリジナルの「経験学習ノート」を使っていらっしゃいます。そのノートはどのようなものですか?

秋山 「経験学習ノート」は、毎週月曜日に前週1週間分の振り返りをして記入してもらうものです。記入項目は「業務の内容」「業務に取り組むときのセオリー」「ストレッチ(どのくらい挑戦的な課題なのか)」「リフレクション(どのように取り組み、どのように工夫したのか)」「エンジョイメント(やりがい、おもしろさ、意義)」などがあり、5点満点で自己採点してもらう箇所もあります。新入社員がこれらを記入したノートをOJTリーダーに提出し、OJTリーダーと責任者からコメントをもらったものを新入社員自身でスキャンし、オンライン上にアップして一連のサイクルが完了します。

永田 なるほど……そうした「経験学習ノート」とOJTリーダーによる1on1ミーティングがセットになっているのですか?

秋山 はい。最初の3カ月間は、まずメモ程度にノートを書いてもらい、その後、OJTリーダーと30分程度の1on1を通して1週間分の経験を振り返ってから、ノートを仕上げてもらいます。1on1で「先週は何がうまくいった? 何がうまくいかなかった?」などとOJTリーダーから質問されることで内省が促されたり、自分では失敗したと思っていたことでも、実はうまくできていたことがわかったり……と、考え方に変化が生じることはよくあることです。だから、フィードバックを受けてから書く方がノートの内容は深まるのです。

早期離職の防止にもなる、「経験学習」での新人教育のノウハウ

永田 OJTリーダーはノートを書くための内省を促すような形で1on1を進めるのですね。サポートはいつまで続くのですか?

秋山 新入社員も慣れてくれば内省しながらノートを書けるようになるので、10月以降は1on1の前に自分でノートを仕上げてもらうようになります。いつまでもOJTリーダーが介入していると、自立できませんから。とはいえ、もちろん、人によって成長のスピードは違うので、全員が10月に切り替える必要はありません。最終目標は、あくまでも本人自身が経験学習サイクルを回せるようになることです。

永田 1週間ごとのサイクルを翌年の3月まで続けるのですね。毎回、ノートをスキャンしてオンライン上に公開することで、新入社員同士は仲間がいまどのようなことを学び、どのように成長しているのかがわかるし、OJTリーダー同士もお互いにどのような指導をしているのかがわかるようですね。

秋山 それがまた内省に繋がっていきます。途中の10月に、新入社員もOJTリーダーもフォローアップ研修を受けてもらいます。新入社員は正式配属されて3カ月たってモヤモヤした気持ちも出てきているはずなので、同期で集まって話をすることでいったんリセットしてもらいます。OJTリーダーには、導入研修で教えられた経験学習を促すOJTができているかどうかを測定する診断を受けてもらい、自分の教え方の強みや弱みを理解してもらったり、OJTリーダー同士で育成の悩みを共有してもらったりします。こうして、新入社員・OJTリーダーともに、残りの半年を走りきってもらうというわけです。

永田 しかし、ノートの提出や1on1を週1ペースでこなしていくのは、なかなかハードだと思います。強制されなければできないことかもしれません。でも、そこまで徹底させることで、新入社員にとって内省が習慣化されるのはもちろんのこと、OJTリーダーにも育て方が身につきますね。

秋山 そうですね。1年間でOJTリーダーは大きく成長します。当初の目的どおり、新入社員が育っていくのは当然うれしいことですが、自分自身にマネジメント能力がつくこともうれしいですよね。3月になるとみんなで集まって“卒業式”という名の解散式を開くのですが、だいだい、新入社員ではなく、OJTリーダーの方が泣いています。新入社員の成長を実感することで、大きな達成感を覚えて感激するのでしょう。

永田 1年間書き続けたノートは、新入社員の方の手元に置かれるのですか?

秋山 はい。パソコンで文章を打って印刷したものを切り貼りした人がいたり、手書きにこだわった人がいたり、形はさまざまですが、いずれにせよ1年間の自分の成長の記録ですから、大切に自分で保存しているようです。他部門から異動して1年目になる私の部下も経験学習ノートを活用していますが、「仕事で落ち込んだときに読み返すと、以前に比べて成長している自分に気づいて慰められる」と言っていました。オンライン上に記録するより、持ち歩いてパラパラと読み返せるノートであることに意味があるのかもしれません。