新人教育を通して、OJTリーダーの成長にも期待

永田 御社では、新入社員の方が2~3年するとOJTリーダーになるとうかがいました。自分自身が数年前に先輩からしてもらったことを後輩に対して行うわけですから、熱が入るでしょう。

秋山 そのとおりです。新入社員と年齢が近いのでわかり合える部分も大きいし、新入社員のために役に立ちたいという気持ちも強いので、OJTリーダーを経験することは大きな価値がありますね。実は、かつては「OJTリーダーは係長以上」と決めていたのですが、最近は役職の指定はしていません。仕事の内容が具体的にわかったうえで指導できる先輩であれば、誰でも可能ということにしています。

永田 「育ててもらったら、次は育てる側にまわる」というサイクルを繰り返すことで、「後輩に教える」という社内文化が醸成されるのではないでしょうか。

秋山 自分がしてもらったことを後輩に返すことで「学び、教え合う風土」が自ずと生まれてきます。こうした風土ができてくると、放っておいても人が育つ企業になっていきますよね。それがこの数年でうまくまわるようになってきました。まさに、私たちが目指してきたことです。

永田 2017年からそうした育成方法を取り入れたことが「離職防止」に繋がっているともお聞きしましたが、いかがですか?

秋山 それは確実に言えると思います。今年は現時点(2021年10月)で新入社員が1人辞めてはいるのですが、それ以前の4年間、1年目に辞めた人は1人もいません。おそらく、先輩や上司からきちんと見てもらっているという意識、振り返る機会を通して成長させてもらっているという意識があるのでしょう。また、密にコミュニケーションをとることによって、自立することがしっかりできているのだと思います。

早期離職の防止にもなる、「経験学習」での新人教育のノウハウ「新人への教育を通して、OJTリーダーも成長していく」と、秋山さんは具体的な事例とともに語る

永田 2年目、3年目で辞める人の数はいかがですか?

秋山 そちらも減ってきています。経験学習を取り入れる前は離職者がもっと多かったので、かなり変わってきた印象がありますね。ちなみに、今年辞めた1人は、辞めると決めた後も「経験学習ノート」を提出し続け、OJTリーダーもそれにきちんと対応していました。ノートを書くことに意味があると感じていたのでしょう。

永田 1年間の新人教育を終えて、新入社員にもOJTリーダーにも5段階のアンケートを採ったそうですが、結果はいかがでしたか?

秋山 「経験学習サイクルを身につけましたか?」という質問に対して、「とてもそう思う」と「そう思う」が新入社員は9割以上、OJTリーダーは7割以上。「経験学習ノートや1on1は有効だと思いますか?」という質問に対しても、「とてもそう思う」と「そう思う」が新入社員は9割以上、OJTリーダーは7割以上でした。新入社員は自分自身のことなので実感として高く評価し、OJTリーダーは本人ではないので高く評価しきれずに70%止まり、ということかと思います。

永田 実際に経験学習を経た新入社員の方の声には、どのようなものがありますか?

秋山 たとえば、「この人には相談してもいいんだ、ということがわかったので、困ったときにいつでも相談できるようになった」という声がありますね。週に1回、1on1を必ず行うことが新入社員にとってはいつでも話を聞いてもらえるという安心感に繋がったのでしょう。「週に1回、ノートを書きながら定期的に振り返ることで、自分のできることが確実に増えていることに気づいて、自信に繋がった」や「後でノートに書くと思いながら仕事をするので、自分を俯瞰して見る癖がついた」など、ノートを書くことにまつわる声も多く上がっています。まさに、経験学習がまわっている証拠ですね。純粋に「上司にコメントをもらえることがうれしい」という声もありました。

永田 課題はありますか? 一般的に、1on1ミーティングなどは先輩や上司との相性が悪い場合はかえってマイナスになると聞きますが、御社ではいかがでしょう?

秋山 そうした問題も一度ありました。入社当初からOJTリーダーとの関係が良くなかった新入社員がいたのですが、次第に悪化して、2年目で会社を辞めてしまったのです。そのグループ会社は経験学習の仕組み自体に原因があるのではないかと考えて、当社の新人教育からいったん抜けたものの、経験学習自体には効果があると判断して、いまは戻ってきています。もし、新入社員と先輩や上司との関係が悪いということがわかったら、人事部はすぐに手を打つ必要があります。そのまま1on1を続けさせてはいけません。これは経験学習云々以前の問題だと思います。

永田 最近の若手は自分から動かずに教えてもらうことを待っている、いわゆる「受け身」であることが多いと聞きますが、そのあたりはどうですか?

秋山 たしかにそうした側面もありますが、先ほどお話ししたように、より大きな問題は我々受け入れ側の方にあったのだと思います。これまで人材育成の訓練が意識的になされてこなかったので、「育つかどうかは本人次第」「辞める人はどうしたって辞めるし、優秀な人はどこにいっても優秀だ」といった雰囲気がなきにしもあらずだったのです。新入社員の方は受け身で、教える方は本人任せ、といった不一致ですね。だから、まずはOJTリーダーたちに経験学習の考え方をしっかり理解してもらったのです。1年かけてペアでがんばってもらうことで、そのギャップが埋まっていくことがよくわかりました。