サイバネティックスの原理
人間も機械も社会も同じ「システム」

 ウィーナーが提唱したサイバネティックスは、一言で言えば「フィードバック制御」を情報で扱う理論である。彼はシステムから出力された結果の一部を、変数を掛け合わせて入力に戻すことで動作の修正が行われる「フィードバック制御」を、情報の流れで捉え、数学的に記載した。

 システムのフィードバック制御は非常にミニマムなレベルから、マクロなレベルまで存在している。例えばエアコンが温度を常に測定して、規定温度を超えたら動作を止めるのもフィードバック制御の一種だ。こうしたフィードバック制御は体内でも働いており、病気のときに、熱が上がり過ぎないように、汗をかいたりして冷却を促す仕組みも、恒常性と呼ばれるフィードバック制御の一種である。また、フィードバック制御はビジネスの現場にも存在している。例えば上司が売り上げの報告を聞いて、在庫が足りないから生産を増やすように指示する、といった社内の仕組みも、出力を見て入力を制御する、フィードバック制御の一種ということになる。私たちの体の中から、ビジネスの現場まで、さまざまなレベルでフィードバック制御というものが存在している。ウィーナーはこのフィードバック制御が類似のモデルで記載でき、それが社会のさまざまなレベルに当てはまることを発見した。

 これだけだと、彼が新しい学問を作り上げた聡明な科学者だったということで話は終わる。が、ウィーナーは、一介の学者に収まる人物ではなく、サイバネティックスを基に未来の社会像を考えた、一種のビジョナリーであった。

 彼はサイバネティックスという学問を基に、生物・機械・社会システムが本質的に同等のモデルであるという考え方を推し進め、身体や社会のフィードバック制御が機械によって制御される世の中が訪れるという、当時としては非常にチャレンジングな思考に突き進んでいく。そして自著『科学と神(原題:ゴッド&ゴーレム商会)』では、サイバネティックスの下で人工システムが人や社会を支える未来の社会における、文化や宗教に及ぶ影響までを論じている。彼はまた、別名義(W.ノーバート)で、未来社会の物語を直接、SFとしても描いている。

 ウィーナーはまさに、SF思考を古くから応用し、自然と機械の間の固定観念を打ち破ってきた科学者であった。そして人工システムが人を補佐する環境を志向する彼の思想は、多方面に強い影響を与えていくことになる。