メタバースやアバターを提案した
30年前のSF小説

サイバースペースに生まれたメタバースやアバター、これらにつながるSF界のビジョナリーとは社名を「Meta」に変更したFacebook。これからメタバースの構築に向けたあらゆる技術開発に取り組む姿勢を示した
Photo:Meta

 垣根を越え、なりたい人生を手助けする効力があることを、近年強く示したのが、2016年末から始まった「バーチャルYouTuber」のブームだろう。人工知能を名乗り動画配信するキャラクター「キズナアイ」の事例をお手本に、企業やサークル、個人クリエーターといった多くの人々が、バーチャル技術で自らの新しい体を手に入れ、生まれ持った容姿や性別、環境を気にせず、発信を行っていくことになる。バーチャル(実質的)に美しい肉体を得る、という意味で「バ美肉」というスラングも生まれた。オンライン上でジェンダーの転換すらカジュアルに行われる。その技術のもたらす可能性に、グリーや博報堂など、多くの企業が投資している。また、こうした企業が模範として出す例には、古くは『攻殻機動隊』、昨今では『ゲームウォーズ』や『ソードアート・オンライン』など、サイバー空間を舞台にしたSFが多く挙げられている。ちなみに、生活空間としてのサイバースペースを指す「メタバース」や、別空間上での体を表す用語としての「アバター」も、ポストサイバーパンクと呼ばれる世代の作家であるニール・スティーヴンスンがSF小説『スノウ・クラッシュ』内で提案した概念である。

 ウィーナーのサイバネティックスは、人工システムが社会に介在し、人々を情報の点から手助けする社会を夢想する手助けとなった。彼自身が現在のようなオンライン空間を想像したとは思えないが、その夢はSFに手助けされ、科学技術の役立て方を示してきたといえる。

 さて、ここまでは主に、人間の能力を手助けする「サイバー」環境について述べてきたが、実は、サイバネティックスの生み出したトレンドは、もう一つ存在している。それが人間自身を機械化し、人間の生活を手助けし、また数々の物語をけん引してきた「サイボーグ」技術である。ただこの話は長くなるので、続きは次回としたい。