SF作品にも実世界にも影響を与える
サイバースペース
サイバネティックスの影響を強く受けたのは、まずアートの分野であった。例えばロンドンの現代美術館では68年にサイバネティックスをテーマに、生命と機械が有機的に結び付いたアート作品が次々と展示された。デンマークのスサヌ・ウシングはその影響を受け、有機的な意匠を含んだ「アトリエ・サイバースペース」と呼称される作品群を作成していく(厳密には、サイバースペースという単語を初めて考えたのは彼女である)。
その後、SF作家のウィリアム・ギブスンが、サイバネティックスの概念を基に、コンピューターと人間の能力が結び付き、才能が開花する新しいフィールドとして、オンライン世界を呼称する「サイバースペース」を提示し、これが普及していくことになる。
ウシングとギブスンのサイバースペースの概念はかなり異なって見えるが、その骨子にはウィーナーの描いたサイバネティックスが存在する。どちらも、人間の存在するスペースに人工物を介在させ、人間の行動を変化させるという点で、ウィーナーの夢を継いだ存在だ。そして、特にギブスンの強い影響を受け、サイバースペースは、コンピューターという人工システムが人間のコミュニケーションを手助けするネットワーク空間、オンライン空間を表す言葉として、物語にも実世界にも影響を与えていくことになる。サイバースペースの可能性を示した昨今の作品としては、スティーブン・スピルバーグ監督の映画がヒットしたアーネスト・クラインの『ゲームウォーズ(原題・映画題名:レディ・プレイヤー1)』や、世界で注目を集めた川原礫の『ソードアート・オンライン』が挙げられる。