温故知新で最先端の学びを校舎に取り入れる「立教女学院」2021年11月から利用が始まった「マルチメディアルーム」。少人数での対話型授業に適した工夫が凝らしてある。模擬国連演習に取り組んでいる様子 写真提供:立教女学院中学校・高等学校

空から眺めると、杉並区の住宅街の一画に緑の島が浮かんで見える。いまでこそ京王井の頭線三鷹台駅前にあるが、関東大震災後に築地から移転してきた当時は井の頭線の開通前で、JR中央線西荻窪駅からは芋麦畑と雑木林に囲まれた通学路だったという。築90年前後の校舎をリストアしながら大切に使い続ける立教女学院は、短大跡も含め、これからの教育に合わせて校舎を次々にアップデートしている最中である。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)

温故知新で最先端の学びを校舎に取り入れる「立教女学院」

山岸悦子(やまぎし・えつこ)
立教女学院中学校・高等学校教頭

立教大学理学部物理学科卒。学習院大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了(化学専攻)。専門は地球化学。学習院大学助手を経て、立教女学院中学校・高等学校で理科教員となる。共著書に『化学の小事典』『原子力災害からいのちを守る科学』(いずれも岩波ジュニア新書)など。

 

立ち上がった新しい教育のための施設

――こちらが以前からお話のあった新しい教室ですね。

山岸 40年ほど前に建てられたマーガレットホールの放送室と旧AV教室のあった3階を改修し、この11月から利用が始まったばかりです。Wi-Fi環境を整え、スクリーンを3方向に5面配置しました。椅子のみですと1学年相当の200人が収容可能で、講演会や映画・動画鑑賞も行える多目的スペースです。

 対話型・実験型の授業展開が可能ですから、小グループに分かれてのアクティブラーニングも行うことができます。海外の姉妹校などとのオンラインでの討論も可能となります。

――この施設は何と呼んでいるのですか。    

山岸 「マルチメディアルーム」です。国際交流や国際貢献に携わる生徒のグループSMIS(St. Margaret’s International Society)がさっそく模擬国連演習で使用したのが、先ほどご覧いただいた風景です。テーマは「SDGs弁当」で、各国の大使がSDGsと異文化理解を促進するようなお弁当を提案して討議するというものです。

――全部英語でスピーチされているのですね。ところで、本校でも短大を廃止しましたが、残された施設の利用についてはどのように考えていますか。

山岸 立教女学院短期大学は2018年に募集停止しました。短大の図書館を、資料室も併設した3階建ての中高のラーニングセンターとして、22年4月より供用開始できるよう現在工事を進めています。ここでは、生徒が自主的に学習し、ディスカッションやプレゼンを行うことができますし、論文作成などにも利用可能です。

温故知新で最先端の学びを校舎に取り入れる「立教女学院」[聞き手] 森上展安・森上教育研究所代表
1953年岡山生まれ。早稲田大学法学部卒。学習塾「ぶQ」の塾長を経て、1988年森上教育研究所を設立。40年にわたり中学受験を見つめてきた第一人者。父母向けセミナー「わが子が伸びる親の『技』研究会」を主宰している。
*森上教育研究所 「わが子が伸びる親の『技』研究会」では実力アップ「差がつく単問」集中講座 など受験生と保護者向けに教材動画を販売しています。詳しくはこちらをご参照ください。

――創立から来年(22年)で145周年を迎えますね。

山岸 母娘、姉妹、中には3世代にわたって通われているご家庭もあるようです。

――OGでもあるお母さんが、「いまでは難しくて、うちの娘も通わせたいけど入れません」とぼやいていました(笑)。リュックを背負った生徒が目立ちますね。

山岸 自然災害やコロナのことを考えると、両手が空いているメリットを考え、今年からリュックを許可しました。学校指定のものは作らず自由ですが、「学習にふさわしいもの」を生徒自らが選んでいます。本校は創立以来、制服は定めておらず、自由服ですが、それも生徒は節度を持って自分で選んでいます。

――生徒さんがにぎやかに各教室を回っていました。

山岸 改修工事中は約半年間、旧短大の校舎に移転していて、本日が高校生に改修したばかりの校舎を見学してもらう初めての日なので。生徒が一番喜んでいるのが大きく変わったトイレでした。中にベンチもあって、安らげるスペースにもなりました。

 築90年の戦前からの校舎は、建築的にも美しく、長く愛されてきましたし、生徒の感性を豊かに育ててきました。建て替えるのではなく、大規模修繕を行う決断をし、これまで取り組んできました。外壁や中廊下の壁は洗浄して補修することで建設当時の色合いを取り戻し、全体的に明るくなりました。

 以前は寒暖差が大きな校舎でした。見た目には分かりませんが、土の上に立っていた1階では、床下に断熱材を新たに入れてあります。隙間風の入っていた窓も機密性を高め、高い天井には温度調節のためのファンが付きました。

――あとでご案内いただく礼拝堂や講堂も一緒に取り組まれたわけですね。

温故知新で最先端の学びを校舎に取り入れる「立教女学院」(1)普通教室にもディスプレーとプロジェクターが設置され、Wi-Fi環境も整備された。椅子の背もたれには防災ずきんが (2)英語科の授業風景。MicrosoftのSurfaceを利用し、コロナ感染予防のための自宅待機者にも同時配信を行うことも可能に 写真提供:立教女学院中学校・高等学校 (3)昔の色合いを取り戻したスパニッシュコロニアル様式の校舎外壁 (4)礼拝堂と教室を結ぶ廊下も重厚な雰囲気に
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