現在の韓国の国防費は対国内総生産(GDP)比で2%を超える。この予算規模は、北朝鮮と軍事境界線を挟み向かい合う韓国であれば、必要な支出とみることができる。現に国防予算の多く部分は北朝鮮への対応に配分されている。

 文政権が予算を編成した5年間の伸び率は37%となった。これは李明博政権の29%、朴槿恵政権の17%を大幅に上回るものである。一方、文大統領と同じ革新系の盧武鉉政権下では国防予算の伸び率は53%であった。これを見てわかる通り、国防予算の増額は、北朝鮮に融和的な革新系でより大きい。これは外部の者からすると不思議な現象であり、その意図を分析することが必要となる。

 これは革新系が、過度な米軍依存からの脱却を目指す「自主国防」の意識が強いためではないか。しかも、韓国経済は現在、コロナ禍の影響でほとんど成長がない。そうした状況の中での防衛費の増額には重大な目的があると考えるのが自然であろう。

 では予算の増額によって強化されるのはどの分野か。

 22年の予算では、ミサイル発射の兆候を探知して先制攻撃を加える「キルチェーン」と呼ぶ攻撃体系の完成を目指している。これは北朝鮮の相次ぐミサイル発射を受けたものだ。

 米軍のステルス戦闘機「F35B」が離着陸可能な軽空母の研究費も計上されている。ただ、北朝鮮と対峙(たいじ)するためだけを考えれば、軽空母の導入は理解できない。

 さらに、中長期では小型監視衛星の打ち上げや無人偵察機の導入で、米軍に頼らない情報収集体制の構築を目指している。先月には純国産ロケット「ヌリ号」の打ち上げに成功。ダミー衛星の軌道投入には失敗したが、22年5月に予定する2号機の打ち上げでは実際の衛星を搭載する予定だ。文大統領によれば今後10年で100基以上の衛星の打ち上げを計画している。情報収集能力の向上は、戦時作戦統制権の返還のためには必要であろう。

 韓国は9月7日、潜水艦発射弾頭ミサイル(SLBM)の水中発射実験に成功したことを明らかにした。報道によれば近く実施する飛行実験を経て実戦配備に向けた態勢に入るという。これは、SLBMを開発している北朝鮮に対抗する意味合いがあろう。