NTTグループは、2023~27年度の5カ年で8兆円の成長投資を計画している。巨額の投資資金をどのように調達してグループ内部に配分するのか。長期連載『経営の中枢 CFOに聞く!』の本稿で、NTTの廣井孝史副社長兼CFOが、巨大グループのキャッシュマネジメントの内部構造を明らかにした。(聞き手/ダイヤモンド編集部 村井令二)
グループのキャッシュを一元化
巨額資金を成長投資に注入へ
――廣井さんは2014年にNTTの財務部門長に就任して、グループのキャッシュを持ち株会社に集中管理する仕組みを構築してきました。その狙いはどこにあったのでしょうか。
元々NTTグループは持ち株会社傘下の事業会社の独立性が高く、配当性向が低かったため、グループのキャッシュが、NTTドコモやNTT東日本、NTT西日本などの事業会社に眠っている状態でした。事業会社ごとに再投資に充てるか、借金を返済するか、ため込むかという判断をばらばらにしていたのです。
特にドコモは2000年代初頭に事業が絶好調でキャッシュが手元にあふれ、米国やインドの通信事業に巨額投資して失敗するという事態にもなりました。そんな当時、NTT東西は光ファイバーの投資負担が重くて、自ら借金していたという状態でした。
普通の持ち株会社ならグループ各社の資金をアロケーションする機能があるはずです。そこで私は財務部門長になって以降、各事業会社の資金を100%出してもらう内部ルールを整備しました。資金調達も、金融会社のNTTファイナンスがグループの信用力をバックに銀行借り入れや社債発行で一括して行い、各社に配分するようにしたのです。
20年までドコモは上場会社だったので、配当はコントロールできません。そこでドコモには自社株のTOB(公開買い付け)を行い、NTTが保有するドコモ株を買い取らせて消却してもらうという仕組みを作って資金を吸収してきた。
今ではドコモは100%子会社なので、NTT東西と同様に100%配当で吸い上げる仕組みが完成しています。これによってドコモが稼いだ巨額のキャッシュはすべて持ち株がコントロールしています。
―― 一方で上場会社のNTTデータグループは配当性向が25%程度。NTTの持ち株比率は57.7%なので、大きなキャッシュは吸い上げていません。
ドコモに比べるとNTTデータグループの当期純利益の規模は10分の1程度なので、グループ全体のキャッシュのインパクトが少ないのが実態です。反対にNTTデータグループはデータセンターの投資で巨額の資金需要があるので、NTTファイナンスから貸し付けている状況ですね。
――NTTグループは傘下に、ドコモ、NTT東西、NTTデータグループがあり、ポートフォリオは複雑です。その中で重視している財務指標は何ですか。
多様なポートフォリオの中で、どのように事業を成長させ、どのように既存のレガシー分野を効率化していくかを考えています。そこで重視している財務指標は、キャッシの成長をみるためのEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)と、株価を形成するEPS(1株当たり利益)の二つです。
――23~27年度の5カ年の中期計画ではEBITDAを4兆円にする目標ですが、以前まで掲げてきたEPSの目標が削除されました。経営指標をEPSからEBITDAに変更したように見えます。
元々NTTグループは株主への利益還元の意味合いから、EPSを重視してきました。生み出されたキャッシュで自社株買いを積極的に行ってEPSを切り上げ、それによって株価も上がってきた。
これに対して現在の中期計画では、事業が生み出すキャッシュが伸びていないという課題認識があります。このため、今は成長投資をして次のキャッシュを生める体質にするため、EBITDAをみるステージです。
そうは言ってもEPSを重視する方針に変わりはなく、毎年持続的に一定規模の自社株買いは行っています。ただ、EPSの目標数字を出してしまうとキャッシュを無理やり株主還元に振り向けざるを得なくなるので、あえてEPSの数字は出さず、プライオリティーとしてキャッシュは成長投資に振り向けるという意思を示しています。
――23~27年度の中期計画で成長投資は8兆円。投資を強化する分野はどこですか。
ドコモが稼ぐ潤沢なキャッシュをNTTが吸収する仕組みを作り上げた廣井CFO。今後は、巨額の投資資金を捻出する手腕が問われそうだ。次ページで、グループ内部のキャッシュマネジメントの構造を余すところなく語った。