「地域振興券」と「5万円クーポン」を巡る状況は酷似

 誰がどう見ても、経済対策ではなく、「自公政権安定化」を目的とした公明対策だった。実際、自公連立のキーマン、野中広務内閣官房長官(当時)は実施した際に、派閥の集会で「天下の愚策かもしれないが、七千億円の国会対策費だと思ってほしい」(「野中広務 差別と権力」魚住昭著、講談社)と述べた…というのは有名な話だ。

 もちろん、こんな話が聞こえてくれば、マスコミも黙っていない。日本経済新聞(1998年11月10日)は『それでも「商品券」なのか』という社説で、小渕政権を「“商品券つき公明党”の協力を得て国会を乗り切る」「政策の貧困は首相のボキャブラリーの貧困以上に重症だ」と痛烈に批判。その一節を紹介しよう。

<福祉政策と考えるのなら商品券でなくてもよい。いつでも、どこでも、何にでも使える究極の商品券、つまりは日銀券(お札)がある。あえて偽造防止や配布に千億円もの経費がかかる商品券である理由はない。経済界は商品券に冷淡だ。東京商工会議所の会員調査でも52%強が消費刺激効果に否定的だし、経済界首脳らも「中途半端で魅力がない」「漫画的」などと述べている>

 いかがだろう、令和3年現在の「5万円クーポン問題」に寄せられている批判と恐ろしいほど重なっていないか。つまり、われわれは1998年の「愚策」を23年経て、忠実に再現しようとしているのだ。

 ちなみに、「地域振興券」の消費喚起効果はどうだったのかというと、かなり微妙だ。経済企画庁は、「2025億円」(内閣府「地域振興券の消費喚起効果等について」)の消費を押し上げたと推定している。しかし、約7700億円の税金を投入してこの程度ということは、多くの人が懸念していた通りになったということだろう。実際、総務省統計局によれば、「地域振興券」が流通した後、1999年9月〜11月の1世帯当たり消費支出は1カ月平均33万5114円で、昭和34年の調査開始以来初の減少となっている。

 こういう歴史の教訓がありながら、自公はまた同じ過ちを繰り返そうとしている。しかも、ただ同じことをやっているわけではなく、そこに至る意思決定を見ると、23年前よりも酷いことになっている。