「5万円クーポン支給問題」で甦る地域振興券の記憶、日本は23年前より後退写真はイメージです Photo:PIXTA

子育て世代が貯蓄をするのは当然、ではお金はどこへ…

 来春、18歳以下の子どもがいる世帯を対象に配布される「5万円クーポン」が、現金を給付するより事務的な経費が約967億円余計にかかることが明らかになって、「狂気の沙汰」「税金のムダ」「完全な愚策」などボロカスに叩かれている。

 吉村洋文大阪府知事も、10万円の給付をすべて現金にして、浮いた967億円を「現金で経済的に厳しい人たちに支援した方がいい」と批判。専門家の多くも「経済学的にもクーポンにする意味はない」と指摘している。

 確かに、5万円分のクーポンをもらったら、それを生活必需品などに当てて、本来そこに費やすはずだった5万円を銀行口座に入れておく、という子育て世帯がかなり多いというのは、容易に想像できる。

「子育て」と「貯蓄」は切っても切れないからだ。

 一般的に、子ども1人を公立大学まで行かせると約1000万円かかると言われているように、教育費は子育て世帯にとって非常に大きな負担だ。子ども3人が私立大学へなんて家庭はすさまじく教育費が膨れ上がる。また、塾だ、習い事だ、スマホ代だと口座からどんどん金が引き落とされる。だから、子育て世帯は、子どもが小さい頃からコツコツと金を貯めざるを得ない。

 子どもを育てるということは「浮いたお金があれば銀行口座にカネを入れる」ということでもあるのだ。こういう子育ての現実を少しでも知っていれば、「クーポンで渡せば貯蓄しないで消費にまわる」なんて素っ頓狂な発想には決してならないはずだ。

 しかし、現実には967億の血税が突っ込まれることがほぼ確定している。批判がされても、過半数を占める議席を盾に押し切っていくだろう。

 そんな狂気沙汰としか思えない「5万円クーポン問題」を見てつくづく感じるのは、「日本の政治は23年前より後退している」ということだ。過去と同じ過ちを繰り返しているだけではなく、その過ちへ向かうプロセスがさらに悪化しているのだ。