国内規制に阻まれるイノベーションは、ダイバーシティと協業が突破口に
トヨタ自動車株式会社 執行役員 Chief Sustainability Officer
1992年 トヨタ自動車入社。初代ヴィッツ等国内向け商品の企画、ダイバーシティプロジェクト等の人事施策の企画・推進、海外営業部門にて収益・人事管理、未来のモビリティのコンセプト企画、GAZOO Racing Company(モータースポーツ・スポーツカー)統括等 複数分野を経験。2020年2月より Deputy Chief Sustainability Officer(新設)として サステナビリティへの取り組みを担当。2021年6月より現職。
豊島:環境問題への対策が迫られる一方、民間企業としては技術的革新も起こさなければならないと思います。日本の企業には、イノベーションが起こる環境があるのでしょうか?
冨山:パナソニックやトヨタのようなグローバル企業は、さまざまな国で新たなチャレンジができるので、日本の規制に縛られない部分はあります。しかし、イノベーションはすなわち新結合ですから、既存の知の掛け算なわけです。この国を舞台に既存のものを組み合わせるとき、日本の規制は障害になりえます。竹内さんが支援されているベンチャー企業も、そのあたりで苦労されているのではないでしょうか?
竹内:エネルギー・環境分野がこれから変化していくためには、スタートアップの力が必要になってきます。しかし、スタートアップが非常に参入しづらい分野です。それは仕方のない面もあります。エネルギーはスタートアップであろうがなかろうが、「10万回中1回もミスがない」という高い完成度が求められてしまう。それをカバーするために、スタートアップと大企業の得意分野をつなぐ支援を行っているのですが、日本の大企業がスタートアップを管理しようとしすぎている印象があります。大企業とスタートアップが一緒に育っていくことが理想だと思うんですけどね。
楠見:竹内さんがおっしゃるような側面は過去には多々ありました。私たちは、スタートアップにしかできないことを大事にしていかなければならないと思います。
大塚:新しいことを推進するとき、ダイバーシティが重要だと思っています。トヨタもダイバーシティには遅れがありましたが、モビリティカンパニーへの変革にあたり、ウーブン・プラネット・グループを設立し、トップをはじめとした多くの人材が海外から集まりました。今、まさにダイバーシティにより新結合が加速されることを目の当たりにしているところです。これからは大企業も、スタートアップや社外の方と一緒に育っていけるよう変化していくのではないでしょうか。
豊島:環境問題を解決する技術として注目を集めているのがバッテリーです。金融市場では、「全固体電池」というキーワードを発した企業の株価が上がるなど、非常に期待が大きい。バッテリー開発において、日本に勝算はあるのでしょうか?
楠見:用途によっては、全固体電池を実用化できる分野もあります。車載用の電池としてバッテリーEVを動かす点では、トヨタさんの研究開発が世界で一番進んでいるのではないでしょうか。
大塚:はい。バッテリーEVや燃料電池といった電動化技術は、ハイブリッド車の技術とつながっています。それをパナソニックさんなどさまざまな方々と一緒に開発してきました。車載用バッテリーとして、車全体の性能を出したり、コストを下げたりする点はかなりがんばっています。
冨山:バッテリーは、いかにエネルギー密度を高めるかという技術であり、連続的な蓄積技術の世界。ソフトウェア開発的なジャンプが起こりにくい分野です。そのため、本来であれば日本のプレイヤーが得意なはずだと確信しています。
豊島:バッテリー技術においては、中国も相当な勢いで台頭してきていると思います。中国の技術の進歩については、どうご覧になっていますか?
大塚:さまざまな国の企業が参入してくることは脅威でもあります。しかし、競争が激化することに対してはウェルカムです。マーケットが盛り上がったり、新たな結合が生まれたりする可能性もありますからね。他社から学びつつ、自分たちの競争力を磨いたり、自分たちが勝てるセグメントできっちり戦うしかないと考えています。
楠見:バッテリー技術に限らない話ですが、中国では若い方々がどんどん留学していますよね。大学の数も非常に多い。そうすると、技術の進歩はスピードアップし、私たち以上に進んでいる領域もあると思うんです。それであれば、中国と対抗するのではなく、協業することも大切です。
私たちは2019年、社内の1カンパニーとして中国・北東アジア社を設立しました。これは、中国の方々に現地で活躍していただいて、中国のスピード感で製品を進化させていく取り組みです。バッテリー業界では、必ずしも日本対中国という構図になっているわけではありません。