働く場所や国籍を問わず、多様な人材でサステナビリティを実現する
国際環境経済研究所 理事、U3innovations合同会社 共同代表、東北大学 特任教授
専門はエネルギー・温暖化政策。慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、東京電力株式会社入社。同社所有地である国立公園「尾瀬」の自然保護活動など主に環境部門を担務。国連気候変動枠組条約交渉に10年以上参加。2011年の福島原子力発電所事故を契機に独立の研究者となり、エネルギー・温暖化政策の提言に取り組む。内閣府規制改革推進会議など多数の政府委員や筑波大学客員教授、東北大学特任教授を務めるほか、2018年10月には主としてエネルギー分野のスタートアップ支援により、U3innovations合同会社を創設。政策とビジネス両面からエネルギー変革に取り組んでいる。主な著書に『誤解だらけの電力問題』(WEDGE出版)、『エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ』(日本経済新聞出版社)など。
豊島:優秀な人材が日本企業から中国や韓国の企業へ流出し、同時に技術も流出してしまうという問題もあります。日本はさまざまな領域で厳しい状況のなか、たとえば高額な給与を提示して人材を引き戻すような挽回策は選択肢としてあり得るのでしょうか?
冨山:私はその仮説に懐疑的です。今、半導体分野で成功しているビジネスモデルは、強烈なトップダウンです。強烈なトップがいて、すごい勢いで極端な意思決定を繰り返し、どんどん先へ進んでいくというモデル。これは、一般的な日本企業には不向きな経営方法です。だから単に人材を引っ張ってくればいいという話でもないと思っています。たとえば半導体産業はレイヤー構造ですので、日本が強いレイヤーでがんばったほうが合理的ではないでしょうか。
楠見:半導体産業は分業の構図が決まっているので、たしかにそのほうが合理的だと思います。海外の優秀人材を日本に引っ張るうえでの課題は、言語の壁です。日本語を前提としていてはダメでしょうね。そもそも、日本という場で働いてもらうことがいいのかどうかを考えたほうがいい。現地だからこそできる、ということもありますから。
大塚:高額な給与を提示するのもひとつの手段ですが、最近「トヨタに入社したい」と言ってくださる方の多くは、給与面を重視しているわけではないなと感じています。社内の若い方と話をしていると、「上司は仕事としてサステナビリティに取り組もうとしていますが、私たちにとっては取り組んで当然のことです」と言われることも。サステナビリティに貢献したいと考えている若い人は増えてきていますね。
冨山:トヨタのギル・プラット氏、ウーブン・プラネット・ホールディングスのジェームス・カフナー氏、そしてパナソニックの松岡陽子氏。そうそうたる面々が、海外の大手企業ではなく日本企業を選んでいる。これはすごいことなんですよ。
竹内:日本の人材も非常に優秀なんですが、ひとつの場所にとどまっている方が多いですよね。海外では、エネルギー会社で部長クラスまで経験し、酸いも甘いも知ったうえで起業する方が多いのですが、日本ではそのような例はほとんどありません。未経験の方が想いを持って起業するものの、制度設計に対する認識の甘さが目立ちます。まずは国内で人材が循環する仕組みを作ったのちに、海外人材との循環を生み出したほうがいいように思います。