実際どうなの?カンファレンス参加者からの4つの質問

麻生:まず1つ目。「シーズ起点で新規事業開発をするときのアプローチ」というテーマでいくつかコメントをいただいています。お客様の技術許容度が低いとき、各社で持っている技術要素みたいなものを起点にビジネスを作るにはどんなことが大切でしょうか?

渋谷:リクルートは「不」の解決をベースにしていますから、シーズ起点はほとんどないですね。

佐橋:うちも同じかもしれないですね。

笹原:シーズ起点はもちろんあります。私たちのプログラムはR&Dから始まっていますし。ただシーズから来ても、結局ニーズ変換をしましたね。ソリューションありきでくることが多いので、そうならないように「本当の課題は何があるだろう?」と問いただしたり。ニーズとシーズがもしずれている場合は、その時点で諦めて次に行くこともあります。

麻生:次は渋谷さんへの質問をいただいています。Ringのエントリーから最終審査までの支援は、後半にいくほど増えるのでしょうか?その場合の設計思想は?と。いい質問ですね。

渋谷:Ringでいうと、1次審査を通過したチームは10月から2カ月ほどブラッシュアップ期間があります。その前にまずブートキャンプという名前で、資料の作り方、インタビューのやり方、調査の行い方、あと法務とかも含めて17のセッションを受けてもらいます。

 それを受講してもらったうえで、10月からはインキュベーターが1人伴走していきます。週1回の壁打ちをしていくとかですね。家庭教師がついてベッタリやるみたいな感じです。あとは、ブラッシュアップ期間中に去年の通過者のパネルディスカッションや質疑応答会を開催します。一次審査を通過した30チームはそういうサポートを受けられる感じです。

佐橋:うちもそうですね。ちょうどチーム数も30くらいで同じ感じです。担当は2名つけて、主担当にある程度権限を与えています。やっぱり直接会って、ベッタリ張り付いてから見えてくるチームの特性とかってあると思うので、その中での濃淡もさらにつけていくっていう感じですかね。特にゼロイチの事業開発の初期は、正しいテーマに正しいチームで挑戦できていることが大事なので、まずはその2つが揃っている状態を作ってもらい、それらが揃っているチームを重点的に手厚く支援する方針です。

笹原:コンテストは最後に5組が残るんですけど、そこがより手厚くなっていきます。あと、いつでも申し込める39worksは、メンターさんを1組つけたりとかしながら進めていっています。

麻生:ありがとうございます。あと2つ、どうしても聞きたいことがあるのでお願いします。まず、すでに発足してスタートダッシュはうまくいった新事業が半年で停滞減速してしまったら、そのケースはどうしていますか?という質問です。

渋谷:そうですね。検証主義でずっとやっていくので、盛り上がる・盛り下がるというよりは、検証プロセスで1個ダメだったら撤退を考えます。

佐橋:うちも同じですね。あとやっぱりチームが内部崩壊してしまうケースとかもあって、そうしたらとにかく早く撤退してもらいます。撤退の見極めって、すごく大事なんですね。2回目3回目の挑戦に向けて、いかに1回目の失敗を軽くしてあげるか。長くなればなるほど失敗が重くなってしまうこともあるんで、そういうところこそ早めに撤退を促すという考え方です。

笹原:うちの場合は既存業務をやりながら新規事業をやってもらう形になっているので、既存業務が忙しいために減速していくというのはあります。その場合はお尻たたきの係として、たいてい私が怒るんですね(笑)。

麻生:次が最後の質問です。視点が違う経営層と一般社員が、どうすればお互いに歩み寄って課題感を共有できるか?と。こういうすれ違いってよくあると思うんですけど、間をつなぐ役割である新規事業部門としては、その目線合わせをどうやっているのでしょうか?

渋谷:プロジェクトに対する課題感がずれないように、検証主義をベースにして、ステージゲート審査で評価しています。本当にニーズがあるか?儲かるのか?は、「わからないっすよね、わからないから調査しましょう。検証しましょう。」っていう話ですね。事業が儲かるか?拡大するか?を確認してから利益を追っかけます。ただ、確かに、市場規模があまりにも小さいと「それってリクルートがやるべきだっけ?」とはなりますね。

笹原:新規事業だとやっぱり、3桁億円とか4桁億円っていう規模感を幹部からは見られます。とはいえ、たとえばコンテストの最終日のピッチとかでは、起案者と幹部とのコミュニケーションミスはそんなに起こらないですね。ピッチがかなり立派なのでみなさん心が動くようです。むしろ課題は、事務局側と幹部とのコミュニケーションかなと思います。今のところ数年後に売り上げレベルで2桁億円を目指そうとしているので、それを無理して3桁だ4桁だっていうよりは、「束にすれば3桁です」みたいに見せるとか、「社会的インパクトがあります」とか。そうやって事務局側でどう会社の意向に合わせていくかという課題があると思います。

佐橋:ソフトバンクイノベンチャーの最終審査は、一部の新規事業の目利きに長けた幹部のみが審査員として出席するやり方に変えています。我々がやっている最終審査って、あくまで500万円の予算をつけて本格的な仮説検証に入るべきかどうかの判断なので、基本的には任せてもらっていて。シリーズA・Bぐらいまで育ててから幹部に見てもらうスタンスにしています。

 ただそうすると、方向性がずれるとまずいですよね。なのでソフトバンクとして注力するテーマをしっかりと募集テーマとして設定して、方向性がずれないよう事務局が中心となってコミュニケーションをとっています。

新規事業を作りたい人、支援したい人へのメッセージ

渋谷:実は自分でもRingに毎年起案しているんです。毎回落ちているんですけど。それにRing自体も、まだまだ自分が育てて進化させていきたいと思っています。やっぱり、みんなが挑戦していくことが大事ですね。みなさんもそうなっていけるといいなと思います。引き続きよろしくお願いします。

笹原:事業を作りたいと思っているみなさんには、先ほどお伝えしたように、早く社長になっておいたほうがいいです。ぜひトライしてください。事務局側のみなさんは「社長直轄じゃないとできないよ」とかいろいろ考えるんじゃなくて、小さくてもいいからプログラムを作りはじめてちょっとずつ手を広げていくようなやり方もできるので、負けずにがんばってください。

佐橋:ソフトバンクイノベンチャーは、ここから生まれた事業の責任者としての経験を通じて、グループの経営層を厚くしていくということも目的の1つにあります。ですので、サイズは小さくても早く経営者としての経験を積むことに意味があると思っています。あとゼロイチは間違いなく足腰がすごく強くなる素晴らしい経験なので、ぜひいろんな方に挑戦していただきたいです。

 日本のスタートアップ全体のエコシステムの課題みたいなことを考えても、日本ってやっぱり大企業にこそ本当に優秀な方がたくさんいらっしゃるんですね。大企業が日本の成長のためにできることって、すごくいっぱいあって、その中心にあるのが社内起業です。社内起業を起点としたイノベーションの創出を、引き続き盛り上げていきたいと思っています。

新規事業を社内から量産するには?リクルート、ソフトバンク、NTTドコモの3大成功企業に学ぶ「仕組みのつくり方」セッション終了後の一コマ(デザイン:McCANN MILLENNIALS)