人生を振り返るとき、人は平穏無事な日々のことは思い出さない

『50歳からのむなしさの心理学』(朝日選書)榎本博明『50歳からのむなしさの心理学』(朝日選書)

 ここには、「生きている」といった実感を得るための大きなヒントが示唆されている。自分の人生を振り返るとき、平穏無事に過ごしていたときのことはあまり思い出すことはない。印象が薄いのだ。とくに思い出されるのは、苦しかったとき、つらかったときのことなのではないだろうか。そこを何とか乗り越えてきて、今がある。それは今の自分の自信の源泉であると同時に、さまざまな思いが凝縮された印象深い時期ということになる。

 そう考えると、何かで行き詰まりを感じたり、逆境に追い込まれたりしたときは、生きがい感を手に入れる絶好のチャンスとも言える。そこでどう振る舞うかが問われているわけだが、状況にあらがいながら、もがくことによって生きがい感が高まるのである。

 何らかの困難に直面し、厳しい状況に追い込まれたとき、だれでも気分が落ち込むし、心が折れそうになるものだ。しかし、そこでもがき苦しむことが人生の充実につながる。そう思うことで、ずいぶん気持ちが楽になるはずだ。