“いのち”に寄り添うドキュメンタリー映画『帆花』が公開されるまで

「東京ドキュメンタリー映画祭2021」では、コンペティション部門に過去最多の応募作品があり、今年10月にオンラインで開催された「YIDFF(山形国際ドキュメンタリー映画祭)」も盛況に終わった。デジタル機器の普及に加え、劇映画(フィクション)よりも低予算での製作も可能なドキュメンタリー映画が“動画の時代”に元気なようだ。そうした時世のなか、ドキュメンタリー映画の配給・宣伝を中心に行う会社がある――合同会社リガード。同社代表の西晶子さんを訪ね、西さん自身のキャリアと1月公開の『帆花』(監督・撮影/國友勇吾)の話を聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「ダイバーシティが導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

映画専門学校で撮った1本のドキュメンタリー作品

「ドキュメンタリー映画」の配給・宣伝を行う合同会社リガード――その設立者であり、代表者の西晶子さんは、石川県で生まれ、東京の大学に進学した後、映画の専門学校に通って映画の制作手法などを学んだ。

合同会社リガード 2015年設立。事業内容は、ドキュメンタリー映画の製作・配給・宣伝など。所在地は東京都新宿区神楽坂。

西 大学では写真部でした。写真の専門学校に行こうかなと思っていたところ、映画専門学校が16ミリフィルムを使っての短編制作ワークショップを実施していることを知り、軽い気持ちで参加してみたのです。写真もフィルムを使っていたので、そういう意味では映画の撮影もそんなに変わらないかなって。でも、終わってみたら、そのおもしろさに魅かれていました……。

“いのち”に寄り添うドキュメンタリー映画『帆花』が公開されるまでドキュメンタリー映画の配給・宣伝を手がける合同会社リガード代表の西晶子さん

 職を得て社会に出る前に、西さんはその専門学校に2年ほど通った。選んだコースは、フィクションではなく、ドキュメンタリー。当然、映画を創る実習があり、西さんも学生の一人として制作に臨んだという。

西 最初の課題はインタビューでした。学生3人でチームを組み、自由にテーマを決め、対象者にインタビューをし、撮影したものを5分間にまとめるのです。いろいろな世代の人が揃っているだろうと考えて、高島平団地(東京・板橋区)に行き、そこで出会った70~80歳くらいの男性に「お話を聞かせてください」と声をかけたところ、思いがけず「家に来てもいいよ」と言ってくださいました。ご自宅にお邪魔し、昔のことやご家族のことを語っていただいたのですが、カメラを回しながら、ファインダーの中で語っている男性に引き込まれていきました。

 学生時代の、その初めての作品が西さんにとって忘れられないものになったのは、撮影後の 達成感と、撮影時の何とも言えない“違和感”だった。

西 インタビューに答えてくれた男性は、話の途中で奥さんの遺影を見上げて、「この人はわしの奥さんだったかなぁ?」と首を傾げたり、「数学の教師をしていた」と言っていたのに「英語を教えていた」と言ったり、ふとしたときに、目の前にわたしたちがいることに驚くような表情をされたりしました……。想像していないことが目の前で起きて、とてもスリリングでした。ファインダーを覗きながら、「次は何が起きるんだろう?」とドキドキしながらも、どんどん集中していくような感覚を覚えました。ありがたいことに、そのインタビュー課題が都内の劇場で一般公開されることになったので、上映に際して出演者である男性の許可が必要になり、わたしたちは高島平にもう一度行きました。お留守だったので置き手紙をして帰ってきたところ、後日にご家族から連絡があり、「本人(被写体の男性)には確認が難しいので、家族で確認させてほしい」と。男性の娘さんは私たちの課題作品を見て泣かれていたように思います。「元気な父の姿が映っている」と。