AI技術が進めば、IT技術は今まで以上に企業や家庭の中に入り込み、個人情報などの機微情報を取り扱うことになる。そうしたときに、AI技術が米国のように機微情報を安心して任せるに足り得る国の産業や企業で開発されたとしても、それらのサービスやソフトウエアを実装するハードウエアも、信頼に足りる国や企業で生産されるのであろうか。

 今日の米国企業のIoT機器の多くは、中国で生産されている。しかし、中国は2017年に施行された国家情報法によって、中国政府の情報工作については企業、市民に協力義務があることを規定している。2021年に施行された個人情報保護法は、個人の機微情報の取り扱いをかなり厳格に取り決めた法律ではあるが、個人情報の域外持ち出しに大きな制限があり、国際的な情報の運用に関しては国家が厳格に管理することができる。

自由主義経済のネットワークで
日の丸電機が再び輝けるチャンス

 民間企業に他意はないとしても、こうした個人情報に対する国家の管理が厳しい国で、企業や個人の機微情報を扱うハードを作ることに、不安はないのであろうか。むしろ、この状況は日本にとってはチャンスではないだろうか。

 いやまスマホだけでなく、ゲーム機、テレビ、家電製品などにもIoTやAIの技術は入り込み、やろうと思えば家庭の中のあらゆる情報を、これらの機器から抜き出すことも技術的には不可能ではない。そうしたときに、米国のパートナーとして、自由経済と民主主義の理念を70年以上共有してきた日本の製造業こそが、IoT機器やAI機器、自動運転自動車などの機微情報を扱う製品を、世界に安心して供給できるのではないだろうか。

 ただ闇雲に最新の半導体技術を追いかけるのは、前世紀の技術戦略である。今日求められるのは、企業や家庭に入り込み個人の機微情報を取り扱う、エレクトロニクス製品や自動車を安心して使える信頼あるメーカーがつくることの重要性を、日本の最大のセールスポイントとして、官民が一致して世界に売り込むことである。

 その中で、日本、米国、台湾という自由経済と民主主義を堅持する国家や地域とのネットワークの中で、オープンな環境のイノベーションに資する技術を提供し、製品を作っていくことが、日本の価値の最大化に最も貢献するのではないだろうか。そうした視点で、米国や台湾と役割分担をしながら、日本にしかできない、AIを実装するハードウエアに必要な半導体の国内自給率を上げていく戦略を描いていくことが、求められるのではないだろうか。

(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 長内 厚)