イノベーションとは「既存の、もしくは新しい技術、アイデア、仕組み、組織などの新しい組み合わせ」であって、「企業に経済的な収益をもたらすもの」と定義されている。そもそもイノベーションの概念を提示したシュンペーターは、労働と資本以外に企業の売り上げを増やすための要素として、イノベーションという概念を用いたのである。

 しかし、日本では古くはイノベーションが技術革新と訳され、今日でも「新結合」のような、よく意味の分からない言葉で語られている感がある。その定義の前半部分「なにかあたらしいものさえ作ればなんとかなる」という概念が、誤解をされているようだ。

「価値創造」は得意だが
「価値獲得」が苦手な日本

 MITのスローンマネジメントスクールでは、このイノベーションの定義の前半を「価値創造(Value Creation)」と呼び、後半を「価値獲得(Value Capture)」と呼んで学生に教えている。大阪大学の延岡健太郎教授は、「日本は高い技術力によって価値創造が得意であるが、戦略を駆使して価値獲得をすることが苦手である」と指摘している。

「価値獲得」を行うために何が必要なのか。20世紀のエレクトロニクス産業は垂直統合的に技術を囲い込み、新たな技術が産み出した機能、性能の差が価値を産み出してきた。しかし、世の中は技術の変化のスピードが飛躍的に速くなり、製品は複雑なものになる一方であり、1つの会社や国の中だけで作ることはできなくなってきている。

 むしろ先述の台湾企業のように、立ち止まる(Step back)ことでより多くの価値獲得を行う戦略で成功している企業もあり、ただ闇雲に最新の技術を追いかけるだけでは、価値創造はできても価値獲得ができないままになってしまうであろう。

 考えるまでもなく、太陽光パネル、フラッシュメモリー、液晶パネル、プラズマパネル、そしてリチウムイオン電池など、多くの技術が日本発の技術であり、ノーベル賞学者まで輩出した日本の価値創造の成果である。しかし、これらの日本企業がしっかり価値獲得をできていたであろうか。今挙げた製品は全て日本が開発し、他国の企業が大量に安定的に安価に生産をすることで、他国企業の価値獲得に繋がってしまった製品たちである。

 だからこそ、今回日本も22~28nmプロセスの半導体という技術にステップバックして、今しっかり日本の自動車産業や電化製品事業を支える価値獲得に貢献することが重要なのである。これは、「失敗したら、何か次の新しい技術課題に取り組めば、いつかはなんとかなるだろう」という、日本の幻想的な負けパターンから目を覚まし、日本の産業・企業が、技術以外の戦略的な能力を高めるためのリハビリのプロセスとも言える。そのために必要な投資であり、今回の日本政府の支援はこれまでになく、日本の産業の育成に貢献するのではないか。