10年も前の技術に投資する
という大胆な意識の変革

 そこで、今回の熊本の新工場である。冒頭で日本政府の支援がなぜ画期的かというと、理由は2つある。

 1つは、それが外資との共同プロジェクトであることである。産業再生機構の活動などを含めて日本のこれまでのハイテク産業支援は、主に日の丸半導体、日の丸液晶など、国内企業の弱った企業同士の再編、意地悪な言い方をすれば、弱者連合への支援であった。

 しかし今回は、世界最大の半導体製造企業であるTSMCと、世界最大のCMOSセンサー(撮像素子)メーカーのソニーの協業という、国際的なプロジェクトへの支援である。かつて液晶パネル分野で、ソニーが当時の最大手メーカーだったサムスン電子とS-LCDの合弁事業を始めたときに経済産業省から批判を受けたことを考えれば、隔世の感がある。

 もう1つ、さらに重要なのは、今回の投資が最新技術への投資ではないことである。常に新しいものを作り、今のビジネスで失敗をしたら常に「次の技術で頑張ります」としか言ってこなかった日本のエレクトロニクス産業と、それを支援する行政が、10年も前の技術に投資をしようというのだから、ここには大きな意識の変革を感じる。

 熊本のTSMCとソニーの新工場の建設は8000億円規模といわれ、その大半をTSMCが出資すると言われるが、10年前に生産を開始した同世代の半導体工場がすでに減価償却を終えていることを考えると、それだけでは同レベルの競争力を持つことができるとは思えない。そこで、6000億円規模と言われる日本政府の支援である。

 これだけの支援が政府から民間企業に行われれば、すでに減価償却を終えた海外の22~28nmプロセスの工場と同じ価格で競争することも不可能ではない。言い換えれば、10年分の減価償却費を日本政府が肩代わりしたようなものである。

 これまでの日本政府の支援は、何を作るか、どのような新しい技術を開発するかに対する支援が中心であり、どのように作り、どのように世界で戦うためかを重視した支援ではなかった。これは政府だけでなく、日本のエレクトロニクス産業全体の問題である。