前回は、予算編成の基本的な流れや予算の構造を説明したが、それはあくまでも表面的な仕組みを述べたに過ぎない。予算の本質は、限りある資源を巡って関係者が争うゲームである。誰かがより多くの予算を獲得すれば、誰かの予算は少なくなる。ゼロサム・ゲームである。誰かの予算を増やし誰かの予算を減らす調整こそが、政治の役割である。

予算を削減しようとすれば、当然ながら反発が生じるので、誰かがそれを説得しなければならない。予算とは、突き詰めれば、資源配分を巡る政治的な調整過程といえる。しかし、それは難しい。特に日本のように、首相が指導力を発揮できない国ではなおさらである。調整できないことが、結果として、巨額な財政赤字をもたらしている。連載の第2回は、予算編成のゲームの特徴と問題を議論し、財政赤字が拡大する要因を明らかにする。

予算とは「他人のお金を使う」仕組み

 そもそも政府部門には、財政赤字を拡大させる要因が内在している。

 具体例で説明しよう。これから年末になり忘年会シーズンが来る。例えば、10人の同僚で忘年会をする場合を考える。もし、その中に太っ腹な人がいて、「何でもいいからおごる」と言ったら、ふつうは、値段の高い店に行くだろう。自分がお金を払うわけではないからだ。しかし、自分で払うなら、お財布と相談してお店を決める。予算制約があるからだ。

 端的にいって、政府部門の予算というのは、「他人のお金を使う」仕組みである。徴税部門は別であり、各省は自分で税金を集めるわけではない。自分でお金を集めずに使うだけなら、どんどん使おうというインセンティブが働く。英語では各省大臣のことを“spending minister”という。公共サービスを受け取る国民にも、同じことがいえる。公共サービスを提供するために必要な費用の全額を国民が負担するわけではないからだ。例えば、一般道路や治安維持に係る費用は、国民がその便益の対価として直接支払うわけではない。もちろん、国民は消費税や所得税などを通じて負担をするが、それは、一般道路の建設に、直接結びついているわけではない。