欧米諸国が公的資金注入や預金保護などの抜本的な措置を講じたことにより、金融危機は一段落し、世界の金融システムの安定も何とか保たれました。実際、株価の動きやマスメディアの関心も、金融危機から景気後退の方に重心が移っています。
過去数週間を振り返ると、欧米諸国の政府は金融システムの維持に向けて非常に迅速に思い切った政策決定を行いました。1990年代に日本政府が小出しの対応を繰り返して不良債権を迅速に処理できなかったことを考えると、今回の欧米政府の対応は高く評価すべきです。
しかし、金融システムの維持に成功すればすべての問題が解決とはなりません。重要な問題が残っています。それは、グローバルなマクロ・インバランスという問題です。
多くの識者が指摘しているように、今回の金融危機の背後に潜んでいるのは米国の巨額の経常収支赤字です。基本的な構図として、米国は巨額の経常収支赤字を生み続け、それを海外からの資金流入でファイナンスしてきました。そのためにも高い利回りの投資対象が米国内で必要ですので、様々な証券化商品が生み出され、今回の金融危機のような事態にまでなったと言えます。
そして、この経常収支赤字の原因は、米国の国内需要、特に個人消費の増大です。米国の過去10年の平均成長率は2.7%と堅調でしたが、個人消費を除くと1.3%しかなく、1950年以来最低の水準です。また、米国のGDPに占める個人消費の割合は、1980年代中頃までは60%台前半でしたが、2002年に70%を超えるなど、増加を続けています。
ちなみに、ある試算によると、過去10年で米国の消費者は3兆ドルに及ぶ借入と支出をしてきたそうです。いわば世界経済の成長と金融の繁栄は、米国の過度の国内需要で維持されてきたと言えます。