「コミュニケーションバリアフリープロジェクト」の存在

 実際にアクセシブルコードを読み取ってみると、スマートフォンから流れ出る音声はゆっくりと聴き取りやすく、商品に封入されている「使用上の注意(説明文書)」のすべての文言がそれぞれの言語で翻訳されたものになっている。前開きのパッケージといい、ピクトグラムといい、「リニューアル」の一言で片づけるのが惜しいほど、多くの手間がかかっていることがうかがい知れる。

吉田 ユニバーサルデザイン化は、シオノギグループ3社(*2)の合同プロジェクトとして、3年がかりで実現したものです。障がいのある方、外国の方などへのリサーチから制作に至るまでには多くの障壁がありました。前開きの形状はかなり特殊なので、紙の破損があったり、プルオープンのつまみ部分がうまくいかなかったり……ただ、どうしてもこだわりたい形やデザインがあったので、そうした技術的なところはシオノギファーマが担当し、私たちシオノギヘルスケアは「最高級の価値がある商品を提供したい」という思いで努力を重ねました。何度も何度も議論と試作を続け、同じグループ会社ではありますが社風も価値観も異なることを強みに変えて、課題を少しずつクリアしていきました。結果、「これだったらお客さまに出せる!」というパッケージにたどり着くまで、多くの苦労とともに長い時間がかかりました。

*2 塩野義製薬株式会社・シオノギファーマ株式会社・シオノギヘルスケア株式会社

 医薬品パッケージのユニバーサルデザイン化は、セデスシリーズに限らず、他の商品にも展開していく予定だと吉田さんは言う。アクセシブルコードの導入は、すでに5シリーズ14商品に展開しており(2022年1月現在)、シオノギヘルスケアの経営理念である「常に人々の健康を守るために必要な、最もよいヘルスケア価値を提供する」ことを具現化している。

 実は、こうした“医薬品パッケージのユニバーサルデザイン化”は、「コミュニケーションバリアフリープロジェクト(以下、CBF-PJ)」というシオノギのグループ横断プロジェクトが起点だった。

吉田 CBF-PJの発端は、聴覚障がいのある社員を中心とした有志の勉強会でした。発足は、2015年で、プロジェクトのコンセプトは、“「最もよい薬」に必要な「情報」を、すべての患者さまに”というもので、さまざまな社会的背景をベースにしています。

 まず、医療財政の逼迫がもたらす、国民の医療機関利用時の自己負担増が挙げられます。そうしたこともあって、「セルフメディケーション」という言葉が浸透し始めているとおり、多くの人が自分自身で多くの医療・医薬品情報を得る必要が出てきます。コロナ禍が収束に向かえば、訪日外国人や在留外国人も増えてくることでしょう。また、高齢化社会とともに、視覚や聴覚の衰えから日常生活に不自由を感じる人も増加してきます。これからの日本の社会では、外国の方、障がいのある方、もちろん一般の方も含め、情報や言葉の壁(バリア)が健康リスクに繋がる恐れが大いにあるのです。