SDGs4「質の高い教育をみんなに」――真のグローバルとは何か?

「SDGs」は「2021ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされたほど、いまやすっかり人口に膾炙している。企業でも学校でも、その理解とゴールへの取り組みが進み、2030年の達成に向けて、社会が歩みを続けている。そうしたなか、早くからSDGsの普及に努め、こと、ゴール4「質の高い教育をみんなに」を考えるうえで注目すべき団体がある――一般社団法人 グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)だ。その代表理事・辰野まどかさんに話を聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「SDGsの誕生理由とは?今後どんな成果を実現していくのか、改めて振り返ってみる」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

「地球志民」の育成から始まる新たな価値創造

 一般社団法人 グローバル教育推進プロジェクト(以下、GiFT)のホームページには、「地球志民(Global Citizenship)」という言葉が大きく掲げられ、「地球志民(Global Citizenship)の育成を通して、一人ひとりの志をつなぎ、新たな価値を生み出す一般社団法人」と、団体を説明している。

「Global Citizenship(グローバル・シチズンシップ)」は、SDGsゴール4のターゲット7にも出てくる言葉であり、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が推奨している「グローバル・シチズンシップ教育」は教育関係者に知られている。まず、辰野さんに地球志民(Global Citizenship)とGiFTの関係について尋ねた。

辰野 「グローバル・シチズンシップ(地球志民)」を、私たちGiFTは「世界をよりよくする志」としています。地球市民ではなく「地球志民」と表現しています。世界にはいろいろな国があり、さまざまな人がいますが、一人ひとりが持っているはずの「世界をよりよくしたい」という志をつなげ、よりよい未来をともに創っていく教育団体が私たちGiFTです。グローバル・シチズンシップ育成のための支援や研修、ワークショップ、海外プログラム、講演、イベントの開催など、「グローバル・シチズンシップ」をキーワードにしたミッションで活動を続けています。

 GiFTは、2012年12月に設立された。英語名称であるGiFTは、Global Incubation × Fostering Talentsの略で、「世界とポジティブにつながり、地球社会に参画、貢献する人材育成(グローバル教育)の促進」を行動指針とした。いまから9年前――いったい、どのような船出だったのだろう。

辰野 国連大学でのGiFTのお披露目イベントで、「地球志民を育成する」という言葉を私は発したのですが、その発言が怖くて、イベントの前日に号泣しました。当時は、「グローバル人材」がブームで、「地球志民」は多くの人にとって聞き覚えのないものでした。「内向きな若者を世界に送り出そう」というグローバル人材育成の意思が政府にあり、2013年は「トビタテ!留学JAPAN」、2014年には「スーパーグローバル大学」が教育業界を賑わせました。

 その一方、「地球志民」の姿勢は、「世界の人と競い合おう」ではなく、「さまざまな社会・文化を生きる人とともに未来を創ろう」というものです。しかし、立ち上げのときは「うーん……」と首をひねられ、「よいことを言っているけど、それって、国際協力のことだよね」といった反応もありました。GiFTは自立した教育団体として社会的ステータスを持ちたかったので、行動指針が理解されないことはもどかしかったです。

辰野まどか

辰野まどか Madoka TATSUNO

一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)ファウンダー・代表理事

東洋大学食環境科学研究科客員教授。17歳の時の海外体験をきっかけにグローバル教育に目覚める。大学時代に世界100都市以上を訪れ、自らを実験台にグローバル教育を体験する。coach21(現coachA)勤務後、米国大学院に留学し、異文化サービス・リーダーシップ・マネジメント修士号取得。その後、米国教育NPO、内閣府主催「世界青年の船」事業コース・ディスカッション主任等を通して、世界各地で多国籍チームとグローバル教育を実践。2012年にGiFTを設立。現在は「トビタテ!留学JAPAN」高校生コース事前事後研修やアジア7カ国を舞台にした海外研修等、グローバル・シチズンシップ(世界をよりより良くする志)育成に関するプロデュース、研修、講演等を行っている。プライベートでは、2019年に鎌倉へ移住。自然・地球とのつながりを実感する時間を過ごしている。著書『世界で学ぶ、働くことは生きること』(共著/書肆侃侃房)。

 GiFTの「G」である「Global (グローバル)」――しかし、GiFTが設立された頃の「グローバル」と現在の「グローバル」は意味合いが少し異なっていると辰野さんは感じている。

辰野 「グローバル人材」という言葉がメディアで目立っていた頃の「グローバル」は、経済的な目線が強かったですね。日本が世界に負けてはいけないという考えでした。しかし、現在の「グローバル」には、地球環境などの課題に各国が協力して向き合うイメージがあり、一つの国が一人勝ちするような「世界競争」ではないと私は思っています。