寝不足の身体は不健康な食事を渇望するらしい。米心理学会誌に報告された研究から。
研究ではBMI22~26(日本では標準~肥満体型)の米国人男性14人、女性13人の計27人(年齢30~45歳)を対象に行われた。参加者は午前1時~5時の4時間睡眠と、午後10時~翌朝7時の9時間睡眠をそれぞれ6日間(5晩)ずつ実施。眠り始めの浅い睡眠をステージ1、最も深い状態をステージ4とし、睡眠ポリグラフ検査で脳波、呼吸状態、眼球運動からレム睡眠、ノンレム睡眠の状態などを記録した。また、それぞれの期間中にエネルギー代謝率を測定し、食事内容と量、食欲や満足感について問診を行った。
その結果、4時間睡眠時は眠りの段階が次第に深くなるステージ2と「脳が起きている状態」のレム睡眠の時間が短縮し、「脳の睡眠」と呼ばれるステージ3~4のノンレム睡眠(深睡眠)の全体に占める割合が増加していた。
食事との関連ではレム睡眠が短いほど空腹感が増し、カロリー摂取量が多くなる傾向が示された。つまり、睡眠不足は「腹が減る」というわけ。また、ステージ2の時間が短くなると甘いものや塩辛いものなど濃い味を渇望し、脂質摂取量が増えた。このほか、眠り始めて1時間ほどで生じる一番深い眠りや起床前の浅い睡眠が短くなると、脂質と炭水化物の両方を欲することが判明している。
炭水化物を欲しがる傾向は、睡眠時無呼吸症候群の患者を対象とした別の調査でも観察されており、睡眠不足と糖尿病発症との関連で注目されている。また、先日、米内科学会の年報に報告された研究では、睡眠不足が直接、脂肪細胞でのインスリン抵抗性を惹起することが示されている。どうやら睡眠不足は直接、間接に前糖尿病状態をつくり出してしまうらしい。
研究者はシフトワークや頻繁な時差は健康を損なうと警告するが、現代人と睡眠不足は切っても切れない関係にある。といって安易な睡眠導入剤の利用はお勧めしない。なんとか短時間でも安全に「良質」の睡眠をとる方法はないものか。開発がかなえばノーベル賞ものの研究なのですが……。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)