「一帯一路」への関心は薄れた

 新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)により、「一帯一路」プロジェクトは一時的な凍結を余儀なくされた。2021年春、インドの感染爆発が飛び火したネパールは大混乱に陥り、「一帯一路」どころではなくなった。人民日報傘下の環球時報は、「ネパールの感染拡大により、現地の中国企業は建設を延期。人材、機械、資材がネパールに入って来ず、投資計画の調査が頓挫した」(2021年5月5日)と当時の状況を伝えた。
 
「一帯一路」の頓挫は、必ずしもコロナだけがもたらしたものではなかった。両国は「一帯一路」の覚書には署名したものの、その後のネパール側はどうも動きが鈍い。両国にとって “悲願”であるはずの鉄道についても大きな進展は見られていない。

 新興ネットメディア「Nepal Live today」は昨年7月、「一帯一路」の鉄道案件について「外務省、財務省、インフラ運輸省、エネルギー省が関わっているはずだが、これまで資金調達の話も詰めず、また専門チームも編成されず、具体的な動きもなかった」とし、ネパール側の関心が薄れてしまったことを伝えている。

 ネパール政府の関係者の一人は、筆者の取材に対しオリ元首相の野望をこう明かした。

「オリ元首相は“親中”であり、“親インド”の政治家です。インドとの関係が悪くなると“チャイナカード”を切り、またインドに近づこうとするときには中国を無視する。独裁的なオリ氏は自分の権力を維持するため、チャイナカードとインドカードを巧みに使いこなそうとしたのです」
 
 もともとネパールは、「インド嫌い」で知られている。歴史的にも小国のネパールが大国のインドから被った不利益は枚挙にいとまがない。だからといって、北の隣国である中国も好きではない。

 ネパール情勢に詳しい、恵泉女学園大学の大橋正明名誉教授は、大国に挟まれたネパールについて次のように語っている。

「ネパールはインドとの関係を、中国を取り込むことでバランスを取ろうとしています。過去には国境封鎖など、インドによる嫌がらせもありましたが、だからといって中国に寄りつきたいとも思っていません。どこかで『インドの方がマシ』だとする心情は、同じ南アジアの内陸国ブータンにも共通します」

 こうした文脈からすると、一時期、ネパールが「一帯一路」に積極性を示したのは、インド牽制とオリ氏の野望を満たすためであり、もとより本気で「一帯一路」のプロジェクトを成就させようなどとは思っていなかったのかもしれない。