インド太平洋戦略に巻き込まれてはならない

 元首相であり親中派のオリ氏が率いるUMLは、MCCを「自由で開かれたインド太平洋戦略」の一部とみなしており、これに強く反対してきた。「米国が戦略的影響力を高めようとするインド太平洋戦略に巻き込まれてはならない」というこの主張は、UMLだけではなく、ネパール政府の一部の上層部にも共有されていた。

 それ以上に懸念されたのは、MCCの協定書にある「締結国はこの協定が発効するとネパールの国内法に優先することを理解する」(セクション7.1)とする条文だった。ネパールには、主権を脅かす可能性を持つこの協定を批准するか否かの決断が迫られていたが、議会は分裂し、目標とされた昨年12月中旬までに結論を出すことができなかった。

 ちなみにスリランカは、2020年2月にMCC協定への署名を一時保留にした。土地管理プロジェクトをめぐる4億8000万ドルの無償資金協力は、スリランカの土地に対する主権を損なう可能性が潜在し、スリランカの国家や社会、経済に重大な悪影響を及ぼすことが懸念されたためだ。

 スリランカには、ハンバントタ港の支配権を放棄し、99年間にわたり6070ヘクタールのプロジェクトエリアを中国に渡したという苦い経験がある。大橋名誉教授は「スリランカの土地は、放っておけば中国が買収しかねない。そうはさせたくない米国が、対中政策の一環としてMCCを迫った可能性があります」と話している。

 中国の「一帯一路」と米国の「MCC」が真っ向からぶつかり合うネパール。しかし、中国と組もうが、米国と組もうが、結果として祖国に悲劇がもたらされることを南アジアの小国はすでに気付いている。黙って扉を閉め“秘境”とならざるを得ないのが、この国の運命なのだろうか。