両国間に何が起こったのか

 2017年を前後して、蜜月ぶりを見せた中国とネパールの関係だったが、わずか数年足らずで暗転した。それを示すのが、中国の“ワクチン外交”だ。

 2021年春以降、コロナの感染拡大にあえぐネパールに対し、中国は2021年5月末の時点で100万回分のワクチンをネパールに無償提供した。同時期、インドは変異株の蔓延で、世界最大といわれるワクチンメーカーを擁しながらも輸出どころではなかったが、そのインドを大きくリードした形となった。

 ところが、今は様子が異なる。前出のネパール政府関係者はこう話す。

「ネパールは今、中国の圧力を受けています。それはワクチン供給に明白に表れています。2021年4月からネパールは中国製ワクチンを受け入れ、一時は7割に達する勢いでしたが今では減っています。私は中国が故意に供給を減らしているのではないかと疑っています」

 もっとも中国がネパールに圧力をかける理由は、「インド牽制」以上に「アメリカ牽制」にあった。前出のネパールの政府関係者は「ネパールには米国の影すら伸びている」と語る。

 実は2017年5月にネパールと中国が「一帯一路」の覚書に署名(当時の首相は統一共産党のプラチャンダ氏)したわずか4カ月後の9月、ネパールと米国はMCC(ミレニアム・チャレンジ・コーポレーション)の5億ドルの無償資金協力の協定書にも署名(当時の首相はネパール会議派のデウバ氏)した。

 MCCとは、経済成長を達成するポテンシャルの高い国、すなわち公正な統治、自由経済、人的資本投資を促進している国を選択し支援を行う機関であり、経済成長を通じた貧困削減を目的とするMCA(ミレニアム・チャレンジ・アカウント、詳細はJICAより)の実施機関として設立された。

 米国とネパールのMCCには、電力利用の改善、道路のメンテナンス、防疫の促進などの開発援助が含まれるが、協定の批准をめぐりネパールは今、大混乱に陥っている。