管理職やリーダーはどのような人がなるべきか? 

 企業におけるダイバーシティ&インクルージョンの推進において、酒井さんは、多様性を尊重する職場風土と人事制度をベースにした管理職によるマネジメントが必要と説く(*3)。そして、年功序列の終身雇用やフルタイム勤務の従業員を想定して作られた人事制度は、人材の多様化に合わせてアップデートしていくことが望まれる。

*3 酒井之子「ダイバーシティ・マネジメントと職場風土」(「労働の科学」75巻1号の特集より)

酒井 人事制度のあり方や改革の方法は企業によってさまざまです。人材の多様化に制度がうまく対応している企業もあれば、遅れている企業もあります。たとえば、「主任から課長になるまでに5年間が必要」といったこれまでの制度を廃止して、「就業年数を問わない」と変えても、社歴の浅い人が昇格・昇進対象になったときに、管理職が一堂に会し、「AさんとBさんは同期だから、差をつけるのは止めておこう」「もう数年たたないと、管理職は無理だよね」となったりします。女性の従業員が対象なら、「子どもがまだ幼いから管理職の仕事は難しいのでは?」「営業の仕事はキツイよね」といった思い込みが先行し、ダイバーシティ・マネジメントに順応した制度改革を阻むこともあります。

 ダイバーシティ・マネジメントの成否は、職場の多様な人材に向き合う管理職の意識がカギになる。たとえば、「寝食を忘れて仕事に打ち込むべきだ」「男性の育休は必要ない」といった偏見で、自分と同じ価値観の従業員を重宝する管理職からはインクルージョンが生まれにくいだろう。

酒井 管理職向けにダイバーシティ研修を積極的に行っている企業も多いですが、そもそも、管理職やリーダーはどのような人がなるべきか、その任用条件を考えていく必要性が高まっています。管理職になってから「その勤務姿勢は改めなさい」「これまでの価値観を変えなさい」と命じられても、当人にすればなかなか難しいですよね。企業がダイバーシティ・マネジメントを実践するためには、管理職に適した従業員を任用することや管理職の育成法が大切で、少し乱暴な言い方をすれば、ダイバーシティ&インクルージョンの姿勢とかけ離れた評価基準での管理職の再生産では企業風土は変わらないでしょう。