異質性から生じる組織内のコンフリクトに対して……

 多様な人材によって組織の成長が期待できる一方、コンフリクトの発生する可能性も高まるだろう。たとえば、外国人・育休明けの従業員・親会社からの出向者・他業種からの転職者……そうした人たちの就労観が同質性の高い従業員たちに受け入れられず、人間関係の軋轢を呼ぶことは想像に難くない。

酒井 SNSでのエコーチェンバー現象は同質性の高い意見が集約・強化されていきますが、同じ価値観を持つ人とのコミュニケーションは誰にとっても楽なものです。一方で、異なる考えやキャリアを積んできた人たちや違う社会環境下で働いてきた人と物事を進めるのは骨が折れるでしょう。相互理解までに時間がかかり、根気強くコミュニケーションを取ることが必要だったりします。話をしているけど、会話のキャッチボールができていない、会話をしているけど、対話になっていない――そんな状況になりがちです。いま、企業でも学校でも、ファシリテーションスキルやアサーションスキル(*4)が大切だと言われるようになっています。さまざまな価値観を持つ人と接していくために、コミュニケーションを行えるスキルは身につけておくべきでしょう。

*4 アサーションは、自分と相手の両者を尊重し、自分の意見をうまく相手に伝えること

 酒井さんが教鞭を執る大学(桃山学院大学ビジネスデザイン学部)のキャンパスは、階段ですれ違う学生が立ち話できるように踊り場を広くし、オープンスペースですぐにディスカッションできるなど、学生たちが「インクルージョン」のための気づきを得やすい造りになっている。ダイバーシティ&インクルージョンは、ビジネスパーソンだけではなく、就学中の若年層も心がけているものだ。

酒井 授業では、PBL(Project Based Learning=課題解決型学習)のプログラムとして、学生たちがチームを作って、企業から与えられたテーマの探求を行っています。1チーム4~5人からなるチームの作り方にはいくつかのパターンがあり、ランダムに作る方法のほかに、学生のさまざまな個性やスキル、属性が混じるように組み合わせる方法もあります。また、学生が自分達でメンバーを募り、チームを作る場合もあります。

 チームの作り方はさまざまですが、私の個人的な観察によると、出来上がったチームには、メンバーの同質性が高いチーム・もしくはそう見えるチームと、そうでないチームがあります。同質性が高いチームでは、ディスカッションからひとつの案が出たときに、みんなが本心から「その案、いいね!」と賛同する場合と、個人的にはモヤモヤがあっても「まぁ、いいか……賛成……」となる場合があるようです。本当は異論を唱えたいけど、全体の空気感から「まぁ、いいか……」となる。同質性が同調圧力を生み、イノベーションが起こりづらくなっているのかもしれません。モヤモヤを抱えたままの「まぁ、いいか……」では達成感を得られず、「みんなが仲良くて楽しかったね」で終わってしまうケースもありますね。

 一方、ダイバーシティ感のあるチームはコンフリクトも起きますが、「俺はこう思う」「私はこう考える」と言い争うだけで終わるケースと、時間を費やしてお互いの主張を理解していくケースがあります。後者では、その成果として、とてもおもしろいものが出来上がってきたりします。

なぜ、企業はダイバーシティ&インクルージョンを推進しているのか?

 利害関係の強いビジネスパーソンのコンフリクトは当人同士では収拾がつかないこともあるだろう。イノベーションを生むための多様な人材の集まりが組織の崩壊をもたらしては元も子もない。

酒井 皆さんがファシリテーションスキルやアサーションスキルを持っていれば良いですが、それぞれの力量には差があります。コンフリクトがコンフリクトのまま終わらないように、「ダイバーシティ管理職」がしっかり介入する必要があるでしょう。人事担当者は組織のインクルージョンを常に支援する姿勢で、「ダイバーシティ管理職」の育成を実現していきたいですね。