中途採用者・異動者・出向者・ダイバーシティ管理職
人材の流動化が進むなか、中途採用者の存在もダイバーシティ・マネジメントには欠かせないものだ。中途採用者の「キャリア」は組織の多様性をかたちづくる一要素であり、同質性の高い組織に異質な人材が加わることはイノベーションの花を咲かせる種(タネ)になる。しかし、種から芽が出るかどうかは、入る側(=中途採用者)と受け入れる側(=組織)の心構えによるところが大きい。
酒井 私も転職経験がありますが、「中途採用」の「中途」という言葉に多少の違和感を持っています。「中途」には、「すでにあるものに付け足される」というイメージがあって、最近では「キャリア採用」「経験者採用」とも言われますが、まずは、「中途採用」という言葉からの先入観をなくしたいですね。
ある組織にAさんが即戦力の管理職として入ってきたときは「変革を組織にもたらしてほしい」という経営者の意図がありますが、組織にいる人たちは「お手並み拝見」という冷めた目で見てしまうこともあります。Aさんは、これまで築いてきた仕事のキャリアや信条とともに「成果を早く出さなきゃ」「頑張って変えてみせる」と思うものの、急ぎすぎて、部下となった従業員や同僚とコンフリクト(対立や摩擦)するケースがあります。「管理職なんだから、あとはよろしく」と、人事部はAさんを組織に放り込むのではなく、Aさんがチームを理解するための時間を十分に与え、社内人脈作りのサポートを行うことも大切です。経営者や人事担当者が中途採用者にどう向き合うかが明確でないと、せっかく入社したのに早々に辞めてしまったり、一向に成果を出せないこともあります。
また、「変革をする」という意思で入社したはずのAさんが、既存の組織にそのまま同化し、何のイノベーションも起こさないこともあるでしょう。ダイバーシティ&インクルージョンの観点からすれば、残念な結果です。
中途採用者のみならず、異動者や出向者の存在も、組織における人材の多様化を成していく。受け入れ側の管理職が「異質な人材」にどう接していくかが、「種(タネ)の成長」を左右するのだろう。
酒井 私は論文の中で、ダイバーシティ・マネジメントをしっかり行える管理職を「ダイバーシティ管理職」と名づけましたが、異動してきた従業員を組織に適切に迎えるためには、「ダイバーシティ管理職」の役割が重要です。多くの異動や転職経験がある管理職はダイバーシティ・マネジメントに長けているかもしれませんね。