「年々膨大に増えていく医療費の削減のために、もともと病院でしか処方されていなかった薬品が市販化され始めましたが、そのなかにはリスクのある成分が含まれているものも多くあります。そのほか、2014年の改正薬事法施行による一般医薬品のネット販売開始や、2017年から始まったセルフメディケーション税制など、医療に携わらない人でも身近に薬を入手できるようになった法律についても、見直しが必要だと考えます」

 現在多くのドラッグストアでは、乱用の恐れがある医薬品の販売は1人1つまでと制限をかける動きがある。だがこれも、何軒かの店舗をはしごしてしまえば、意味をなさないだろう。一般人がリスクのある薬を大量に入手する抜け道はいくらでもあるのが現状だ。

 松本氏は、若者への薬物指導についても課題を指摘する。

「これまでの薬物乱用防止教室で教えられる『ダメ。ゼッタイ。』という合言葉も、もともと死が頭をよぎるほどの環境で、なんとか苦しみをごまかすためにオーバードーズする若者には有効ではありません。『薬物には死のリスクがある』と聞けば、かえって関心を高めてしまう可能性もあります。また、頭ごなしに薬物乱用を否定する指導も、既にオーバードーズを繰り返す若者が、より周囲に相談しづらくなる状況を招いているような気がしてなりません」

 このまま何も対策が打たれなければ、今後も若者のオーバードーズは深刻化していくだろう。この問題の裏にある、若者の孤独化から目を背けてはならない。

監修/松本俊彦(まつもと・としひこ)
国立精神・神経医療研究センター所属の精神科医。薬物依存や自傷行為に関する研究を行う。著書に『薬物依存症』(ちくま新書)、『誰がために医師はいる―クスリとヒトの現代論(みすず書房)』など多数。