トヨタ自動車の創業家が経営への支配力を急速に高めています。だが近年、豊田章男氏による独裁の弊害が「現場のひずみ」となって噴き出すようになってきました。『週刊ダイヤモンド』3月5日号の第1特集は「絶頂トヨタの真実」です。特集では、トヨタの創業家、カネ、権力…タブーに斬り込むことで、巨大組織が抱える大問題の本質に迫りました。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

過去最高益、時価総額40兆円を視野
押しも押されもせぬNo.1自動車メーカーに

 トヨタ自動車が、空前の絶頂期を迎えている。半導体不足による減産修正や原材料高騰という逆風が吹いているにもかかわらず、2022年3月期決算は過去最高益レベルで着地する見通しだ。

 昨年12月には、「30年までにバッテリーEV(電気自動車)の世界販売350万台」を実現する大攻勢計画をぶち上げた。この宣言によるアピール効果は大きく、「トヨタは脱炭素化やEVシフトに及び腰」というレッテルを見事に剝がすことに見事に成功したのだった。時価総額40兆円を視野に入れて、米テスラを追い上げる体制が整いつつある。

 トヨタが、押しも押されもせぬ世界No.1自動車メーカーに躍り出たことは紛れもない事実だ。今まさに絶頂期にあると言える。

 しかし近年、絶対王者のトヨタらしからぬ“ウィークポイント”が露呈する場面が増えている。系列販売店における不正車検の発覚、度重なる自動車生産計画の下方修正、重要サプライヤーである日本製鉄による特許侵害訴訟の提起、そして、エース人材の流出ラッシュ――などがそうだ。いつしかトヨタ社内には、こうした不始末を誘発する“組織の病巣”が宿ってしまったのかもしれない。

 折しも、創業家である豊田本家がトヨタの経営への支配力を高めている。それは二つの形となって現れている。

 一つ目は、歴史の“書き換え”である。近年、豊田章男・トヨタ自動車社長やその側近は、豊田本家こそが正統であり、かつて経営と創業家との分離を画策した奥田碩・元会長や奥田氏がリスペクトしていた分家の豊田英二氏に否定的な姿勢を見せている。“中興の祖”である英二氏やグローバル展開の立役者である奥田氏の名はトヨタの歴史から排除されたのだ。

 替わって、トヨタの歴史を受け継ぐ正統性は豊田本家にあるというプレゼンテーションをことあるごとに展開している。豊田本家とは、創始者の佐吉氏、自動織機を発明した喜一郎氏、章男氏の父である章一郎氏、章男氏、(章男氏の)長男の大輔氏という豊田家直系の面々だ。

 二つ目は人事である。章男氏は役員を大幅に削減したり、組織の階層をフラット化したりすることで、自身が権限を掌握する中央集権化を進めてきた。

 自動車業界を襲う「100年に1度の変革期」を生き抜くため、迅速な経営を可能にすることが組織改革の大義名分である。

 だが、大輔氏が経営の表舞台に立つようになって以降、社内では「改革は企業存続のためではなく、豊田家の世襲のため」冷めた見方をする社員が増えて白けムードが漂っている。

 向こう10年以上先になるかもしれないが、大輔氏がトヨタ本体のトップに立った時のために、創業家の地位を脅かさない「側近体制」を構築しているようだ。

 章男氏による中央集権化は時代の要請か、それとも組織の私物化か──。

本創業家のカネ、権力…を大解剖
トヨタのダブーに斬り込む

 『週刊ダイヤモンド』3月5日号の第1特集は「絶頂トヨタの真実」です。特集では、わが世の春を謳歌しているトヨタに潜む死角を取り上げました。

 トヨタグループの創業家、カネ、権力、ガバナンスの機能不全…業界のタブーに斬り込むことで、巨大組織が抱える大問題の本質に迫ります。

 また、トヨタが「EV350万台」を実現する頃には、トヨタの敵はもはや自動車メーカーだけではありません。モビリティの価値は「走る・曲がる・止まる」のハードウエアから、自動運転やモビリティサービスをつかさどるソフトウエアへシフトします。

 将来のライバルと目される、日本電産やソニーグループなど水平分業プレーヤーの動きにもウォッチしました。

 トヨタはいつまで絶頂期を堪能することができるのでしょうか。