接待も原則禁止
手土産も受け取り厳禁の徹底ぶり

 今はコロナ禍の影響で難しくなっているが、かつては取引先との関係を維持するために、営業活動の一環で接待の飲み会を設けるのはビジネスの世界の常識だった。

 しかし、「フェアに取引する」ことにこだわるキーエンスでは、以前から接待は原則禁止である。情に訴えかけたり、お酒の力を借りたりして関係性を維持するのは、営業活動の本筋から外れると考えるからだ。

 また、日頃の付き合いへの感謝やねぎらいを込めて、取引先が「つまらないものですが…」と菓子折りなどを手渡してくれるのも、仕事でよくある話だ。

 これも、一般的な企業であれば受け取ることが多いだろうが、キーエンスでは断らなければならない。フェアな関係性のバランスが崩れるためだ。

 贈答品を拒むことで取引先の気分を害し、今後の営業活動に悪影響が出そうな場合のみ受け取りが認められるが、その場合は必ず本社に提出するのがルールだ。

「キーエンス在籍時にパン屋さんを担当していた頃、先方が『新製品のパンがあるから食べてよ』と商品を手渡してくれましたが、『うちではもらったらダメなんです』と伝えざるを得ませんでした」

「結局、『食べてよ』『ダメです』と押し問答を繰り返した末、受け取って本社に送りました」

 高杉氏は苦笑いしながら、そう振り返る。

 こうした際、「黙っていればバレないだろう」と隠れて贈答品をもらう人が出てきそうなものだが、キーエンスの営業マンは“ズル”を嫌い、徹底して行動規範を守るという。

「そういう文化が形成され、みんなが一つのことに集中できるのはすごいと思います」と高杉氏は分析する。

 かつてキーエンスの一員だった同氏が身をもって実感したように、徹底した公平性と高い規律性が、同社の競争力の源泉になっているのだろう。

ウエットな付き合いを排除し
“王道”の営業スキルを追求

 キーエンスがこれほどまでに「フェアな取引」を重視する背景には、「社員の営業スキルを鍛え上げる」という目的もある。

 確かに世間では、「お酒に強く、コミュニケーション能力が高い」といった資質を持ち、接待の場で顧客と親しくなるタイプの営業マンも活躍している。手土産のやり取りを通じて顧客と親しくなる人も多いだろう。

 だが、そうした人材が、必ずしも提案力や分析力に優れ、商談や新規開拓でも成果を発揮できるとは限らない。

 だからこそキーエンスでは、顧客とのウエットな付き合いをあえて封印。「顧客のニーズや課題を聞き出し、適切な自社製品を提案する」という王道の営業スキルを突き詰めることで、誰がどのような企業を任されても成果を上げられる合理的な体制を築いているのだ。