高齢者は幾つかの病気を抱え、日々飲む薬がかなり多くなりがちだ。だが、この多剤服用は高齢者に転倒などの副作用をもたらし、認知症状の悪化につながりやすい。実は、高齢者がさらされるリスクはこれだけではない。入院である。医療機関に入院できたら安心……そう考えるのは間違いなのである。特集『決定版 後悔しない「認知症」』(全25回)の#12では、この二つのリスクについて詳述する。(ダイヤモンド編集部 小栗正嗣)
多過ぎる薬による副作用が
高齢者の心身に危険をもたらす
服用する薬の種類が多いことが多剤服用である。その中でも害を及ぼすものをポリファーマシーと呼ぶ。これが問題になるのは、特に高齢者だ。
高齢になると、幾つもの持病がある人が増え、病気の数だけ処方される薬も多くなっていく。75歳以上では約4人に1人が7種類以上、4割が5種類以上の薬剤を処方され、服用している。
だが、これが害を及ぼす。高齢者では、飲む薬が6種類以上になると、副作用(薬物有害事象)が現れる人が明らかに増え、転倒もまた増えることが研究で報告されている。5種類以上の薬を飲む高齢者の4割以上に転倒事故が起きているという(下図参照)。
高血圧や糖尿病など生活習慣病、あるいはその他の持病がある高齢者は多い。医療機関を自由に選ぶことができるフリーアクセスの下で、家の近くの複数の医師にかかっていることも珍しくない。それぞれの医師に薬をもらうことで、薬はおのずと増えていく。お薬手帳も有効に使われているというには程遠い。
薬の種類が増えやすい上に、そもそも高齢者には薬が効き過ぎることが多い。
飲んだ薬を肝臓で代謝したり、腎臓で尿に溶かして排せつしたりといった、薬の効き目を低下させる機能が衰え、代謝や排せつまでの時間がかかるようになる。そのため効き過ぎてしまう。
高齢者やその家族が心すべきなのは、こうした薬の効き過ぎがせん妄、認知障害を引き起こし得ることである。時間や場所が急に分からなくなる見当識障害、記憶障害、幻覚・妄想なども薬が原因となることがある。
薬剤誘発性認知症ともいわれるように、副作用が認知症の症状と紛らわしい薬は結構ある。認知症と薬の密な関係を、さらに具体的に見ていこう。