認知症患者の財産を守る手段として一般的な「成年後見制度」だが、家族にとっては使い勝手の良い制度とはいえない。特集『夫婦の相続』(全13回)の#5では、遺言書に代わる相続対策の“切り札”としても注目される「家族信託」について詳しく解説する。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)
“仲良くおしどり認知症”夫婦が増加!
遺言書だけでは妻を守れない
「人生100年時代」といわれ、超高齢社会に突入したわが国において、認知症は「国民病」ともいえる。厚生労働省によれば、2025年には、高齢者の5人に1人が認知症患者と予測されている。
この事態は、相続の現場にも大きな地殻変動を起こしているという。「相続を考える上で、認知症はもはや欠かせない要素だ」と強調するのは、MUFG相続研究所の小谷亨一所長。
さらには、夫婦共に認知症というケースも珍しくなく、「遺言の執行時には、被相続人の配偶者が認知症や他の病気で意思能力がなくなっている場合もよくある」(小谷所長)。
19年の日本人の平均寿命は、男性が81.4歳、女性が87.5歳だが(厚労省発表)、最も多くの人が亡くなる年齢は、男性は87歳前後、女性ではなんと93歳前後。小谷所長の「夫の死亡時、すでに妻が認知症」というケースが少なくないというのもうなずける。
人生100年時代では、「自分の死後に相続などの後処理はしっかり者の妻がやってくれる」とのんきに構えることなどできない。
しかも、妻の老後のために多くの財産を残そうと、自分の目の黒いうちに遺言書を作っておけば安心というわけにもいかない。
自分の死後、妻がすでに認知症なら、妻自身の意思で遺産を活用することはほぼ不可能だからだ。
トラブルを防ぐ伝家の宝刀としてニーズが増えている遺言書だが、仲良く“おしどり認知症”という夫婦が増える今後、遺言書だけでは妻の老後を守れない上、妻以外の家族も非常に困る事態に陥る場合がある。
亡き父がしっかり遺言書を残していたにもかかわらず、後々家族が困った事例を紹介しよう。