親の介護は思いの外費用がかさむ。そう漏らす家族は少なくない。おかげで家計が圧迫されている現役世代もいる。しかし、介護費用には実は幾つかの負担軽減制度がある。それに気付かぬまま、“払い過ぎ”となっているのはもったいない。特集『決定版 後悔しない「認知症」』(全25回)の#20では、お金を取り戻すためのチェックポイントを解説していこう。(ダイヤモンド編集部 小栗正嗣)
お金を取り戻すための基本のき
介護サービスの上限と自己負担の仕組み
公的介護保険は医療保険、年金保険などと同じ社会保障制度だ。40歳以上から保険料を納め、いざ介護が必要になったときに、公的保険で賄われるサービスを受ける。年齢、合計所得金額などによって、例えば、65歳以上で住民税が非課税か合計所得金額が160万円未満であれば1割といったように、その1~3割が自己負担となる。
医療保険制度との違いは、介護度によって1カ月で利用できる介護保険サービスの上限が決まっているということだ。この支給限度額は金額ではなく「単位」で表され、住む地域やサービスの種類を考慮の上、金額に換算される。
1単位10円を基本として、例えば東京23区の訪問看護であれば11.40円、横浜市や大阪市であれば11.12円、さいたま市や千葉市、名古屋市であれば11.05円を掛け合わせた金額額が上限金額となる。この上限を超えた部分は保険適用とならずに全額自己負担だ(下表参照)。
こうした介護保険を利用するに当たって欠かせないのが要介護・要支援の認定を受けること。市区町村の窓口、地域包括支援センターなどから申請が可能で、申請から判定までの期間は基本的に1カ月以内で済む。
この介護認定の中でも鍵になるのは、要支援2と要介護1の境界線だ。要支援1と2向けの訪問介護やデイサービスは2015年に介護保険から外れ、予防給付となった軽度なもの。それと介護給付との分け目である。
要支援1から要介護5まで7段階の判定は、厚生労働省が定める要介護認定等基準時間が物差しとなっている。要は介護にかかる時間のコンピュータ推計だ。ところが、この時間で見ると要支援2と要介護1は、32分以上50分未満と一緒。言葉にすると「基本的には一人で生活できるが、入浴などで部分的な手助けが必要な状態」で共通である。
時間が同じなのに、利用できる介護サービスの支給限度額の方は、要支援2の1万0531単位(1単位10円として10万5310円)に対し、要介護1は1万6765単位(1単位10円として16万7650円)と結構な差がつく。
こうした要支援2と要介護1の境界線は他でもない、「認知症の有無」による。認知症となったら、あるいはその疑いが濃い場合、要介護1となるわけだ。
かくして、最も軽微な要支援1の5032単位(1単位10円として5万0320円)から、全面的な介助なしには生活できない最重度の要介護5の3万6217単位(同36万2170円)まで、介護の必要度が判定され、その1~3割が自己負担となる。月々の負担額は介護度が上がるにつれて、なかなかの金額に達する。
ただし、自己負担が高額となったときには、強い味方が現れる。まず登場するのは「高額介護サービス費」だ。次ページからは高額介護サービス費制度の注意事項など、お金を取り戻す五つのポイントを解説していこう。