説明会以外の
コミュニケーション手段は?

 M&Aについての十分な情報共有を図り、シナジーを創出していくためには、説明会を開催するだけでは十分ではありません。その他の様々な手段を用いて、M&Aの目的とビジョンを社内に繰り返し伝えていく、「インナー・コミュニケーション(組織内コミュニケーション)」の努力を惜しまないことが重要です。情報共有の手段には、説明会以外にも様々なものがあります。図表3にまとめてみました。

 M&Aを継続的に行っている、ある企業では、M&Aを通じて得られたポジティブな成果を、社内報で積極的に共有しているそうです。M&A後に、人と組織の統合が成しとげられるようにするためには、もともとの出身組織を主語にするのではなく、統合後の新会社について「わが社とは、どのような会社なのか」を、社員が語り、繰り返し確認し合う必要があります。その社員が語り、確認し合うプロセスが積み重なることで、統合後の新会社の実像が形づくられていきます。様々な手段を使ってM&Aの目的やビジョンについて重層的に伝え続けていくことは、常に「わが社とは、どのような会社なのか」を社員に問いかけ、組織のなかに語り合う機会を生み出すことにつなげるためなのです。

 ある企業でPMIに取り組まれた方は「グループ各社の理解を深めるために、半期に1回総会を開いています。また朝会も開催し、マイノリティになりがちなグループインした企業の話も聞くようにし、『仲間入りした』という感覚を強めてもらうようにしています」と、単なる情報共有だけではなく、新しい組織の一員なのだ、という感覚を強めてもらうために、総会や朝会を活用しているとのことでした。

 情報提供について検討する際は、

・何を(What)
・どのような手段で(How)
・誰から(from Whom)
・誰に(to Who)


 伝えるかを意識しながら、マルチチャネルによる複層的な情報提供に取り組む必要があります。

 ひと口に「社員」といっても、人によって関心を持つ部分は異なってきます。仕事のやりがいを気にする人もいれば、給与などの待遇面が気になる人もいるので、情報発信の機会を複数持ち、共有する内容についても、多面的な情報を織り込むことを心がけたいものです。

《連載バックナンバーはこちら!》
第1回 M&Aを失敗させる『人と組織』の問題とは?
第2回 M&Aはなぜ社員に葛藤をもたらすのか?
第3回 M&A後の組織・職場づくりの視点とは?
第4回 M&Aの目的とビジョンを統合前に改めて明確にする理由とは?

●本連載の第6回は4月12日(火)公開予定です。