【3】上通性
会社に行かないことが普通になってくると、業務上のコミュニケーション回路が限定される。会社に皆が普通にいれば、立ち話のふうを装いながら上司の上司に状況をインプットしたり、やりたいことの提案をしたり、直接の上司の問題点などをオブラートに包みながらもインプットすることも可能だった。
しかし、現下の状況で、上司の上司にオンラインで話す時間を作ってもらうお願いをするなどというと、ちょっと大げさで下手をすると厄介なことになってしまうので実際にはできない。そうなると、自分のアイデアや企画を、上司の上司や、会社に認めてもらうには、自分の上司がその上に対して説得力を持って内容を説明し、すぐさま承認を勝ち取ってくるか、少なくとも自分のためにそのプレゼンテーションの機会を作ってくれるかでなければ、何も進まない。つまるところ、上に話を通す線が直属の上司を経由するしかないという状況になっているのである。
となると、上司の上通性(上に意見などを上げたときに、それがきちんと受け止められる可能性の高い状況)が重要になる。上通性を持つためには、会社のビジョンや戦略をしっかりと理解し、提案をその一連の方向性の中に合理的に位置づけ、提案内容の効果およびコストパフォーマンスを明確に説明し(数字に強く)、実現にむけて組織運営が確実に行われる蓋然性を示し、業務推進に関するリスクをあらかじめ把握し、対応を準備していることを表明することが必要である。そういう内容であって初めて、会社や上司の上司も、その内容にOKを出すのである。
しかしながら、これらの技量を持たない上司の提案は、あなたの出番を待たずして簡単に却下されてしまうだろう。結局、上司が頼りないと、あなたの提案は実現されないのである。現在はこの傾向がとても高まっている。なんらかの方法を使って、あなた自身が目立つ工夫をしないと、あなたは埋没してしまい、あなたのところにチャンスは回ってこないのである。
【4】メンバーの特質の正確な把握
仕事を適切にメンバーに割り振るためには、それぞれの特質をよく見極めなくてはならない。これは当たり前のことなのだが、これまでであれば、割り振った仕事に対して、どのように取り組んでいるか生の姿が見えたので、うまくいっていないと推察されれば、早めに介入したり、支援したりすることが可能であった。
しかしながら、現在は個々人の状況が見えにくく、最終的なアウトプットだけで判断しなければならない。そのアウトプットは、高い目標に挑んで頑張ったがゆえに失敗作になってしまったものか、適当にネット上から情報を集めてきれいなパワポファイルに仕上げたものかなど、それぞれのメンバーの特性や技能をしっかり把握した上で、適切に評価して、結果を判断し、今後の方向性を指導しなくてはならない。
また、一緒に仕事を進めている人同士の相性にも気を配らなければならないが、その関係性もリアルには見えないので、気がついたら、口も利かない状態になっていたりすることもある。
このようなことから、個々人のやりたいこと、頭の使い方、行動のパターン、人とのコミュニケーションのありかた、将来の希望、現在の業務、満足度などを今まで以上に的確に把握し、その人の意向と能力に合った仕事の割り振りやチーム編成も考えなくてはならない。それができないと成果が出ないし、当人の成長も見込めない。
【5】率直に語る関係性の構築
直接会う時間が減っているので、皆で会議(オンライン、オフライン)をし、討議をする際には、お互いに遠慮なく思ったこと、考えたことを素直に交換できる状況を作らなくてはならない。
特にオンライン会議では、気配を消していてもどうにかなるため、思いついたことがあってもあえて言わず、最低限の参加で時間の経過を待つという行動文法も一般化している。消極的な参加で良しということになってしまうと、必要な情報交換もされず、良いアイデアも共有されず、共通のテーマや進めているプロジェクトの話題で盛り上がることもなく(したがって、そのプロジェクトを成功させようという機運も盛り上がらず)、個々人は淡々と割り振られた自分の業務だけを(全体の状況を一顧だにせず)遂行して終わりということになってしまう。
そうならないためには、オンライン会議やチャットツールでのコミュニケーションなどでの率直な意見の交換が当たり前の状況をつくり出すことが重要で、リーダーにはそれらの促進のために巧みなファシリテーションをする技術が必要になる。ボケてみたり、バカを言ってみたりして議論を上手に活性化しつつ、一定の段階で明確な判断基準をもとに意思決定し、個々人の業務に落とす。当然、ファシリテーションに付随する高いコミュニケーション能力もまた必須である。