一体自分が何の目的のために今何をしていて、それがどのような形で使われてどのような最終形に至るのか、そのためには、どのように情報共有し、調整していけば良いのか、五里霧中の状態にある。会社で毎日メンバーが顔を合わせていたときは、時間を多く共有し、雑談も交えて業務に関連するいろいろなことを話している間に、リーダーからの明確な指示がなくとも、なんとなく全体像と、なんとなく自分のやるべきこと、なんとなく互いに調整すべきこと、などが判別できていたのだか、今はまったく何も見えずわからないのである。

 実は、この仕切る力は、“プロジェクトマネジメント(PM)”のスキルでもある。PMには、PMBOK(Project Management Body of Knowledge)と呼ばれる知識体系があり、良質のトレーニングプログラムも数多く存在しているのだ。それにもかかわらず、これまでの日本企業においては、こうした仕切る力が重視されてこなかった。

 その理由は、ひとつには、多くの日本企業における意思決定プロセスが、不明瞭であり、“手戻り”(一度決まってやり始めたにもかかわらず、またやり直すこと)が頻発するため、PMの教科書通りには業務が進んでいかないからではないかと考えられる。

 しかしながら、業務の分割や工程表づくりなどを習得し、明確にメンバーに指示が出せる能力は、チームメンバーが分散して働いている状況下においては、とても重要だ。業務の全体構成と進め方の手順を明確にしてくれない上司の下では、リモートワークで業務を円滑に進めていくのは不可能ともいえる。

 仕切る力が重視されない理由のもうひとつは、兵站軽視(第2次世界大戦の日本の敗戦も兵站の軽視に大きな原因があった)、ロジスティクス軽視、仕切りと進行は「ノンキャリ」の仕事と決めつけている日本独特の風潮である。つまり、偉い人はそういうことはしないし、できなくてもいいという、戦前から連綿と続く人々が無意識に持っている先入観なのだ。

【2】深い業務知識

 1の仕切る力と関係性が高いが、自分たちのやっている仕事の内容についての深い業務知識があるからこそ、全体像が見渡せ、肝になるポイントがあらかじめ予測でき、足りていない経営資源の調達が可能になるのだ。したがって自分たちがやっている業務の内容、取り組んでいる領域の知識、対象となるクライアントやカスタマーの状況と真のニーズ等について、きっちりと把握できていないリーダーは、業務と人を仕切ることができない。

 これまでは、メンバーを全員集めて会議を運営し、それぞれの発表を聞きながら、調整が必要なことについては「そこはお互いに話をしておいて」と指示をする――いわゆる会議運営スキルさえあれば、業務推進はそれなりに可能だったし、だからこそ、営業課長だった人を突然人事課長に横滑りさせても、どうにか対応できたのである。しかしながら、皆が直接会う時間がなくなることによって、自発的な業務調整をしてくれなくなってしまうと、リーダーによる積極的な調整と介入なしに業務は進まない。そしてリーダーは深い業務知識がないと何も指示できないのである。