ダイビングの愛好者でもあったフィスターは、ある日潜水に熱中するあまり、ボンベの酸素を使い果たしてしまい、危うく命を落としかけた。そこで酸素ボンベの残量を測る時計の装備品を考えていたところ、フランス潜水戦闘部隊の元特殊工作員で“フランスのジェームズ・ボンド”の異名をもつロベール・マルビエ大尉が協力。軍事的戦略の見地から同じ構想を抱いていた大尉の提案により、60分計目盛りが付いた回転ベゼルの装備にいたる。

 この回転ベゼルには水中で誤作動しないようロック機能を与え、蓄光塗料を施して高い視認性を発揮するブラック文字盤を組み合わせた。かくして完成した“フィフティ ファゾムス(水深91.45m)”は、フランス海軍以外にも、アメリカ、ドイツ、スペインなど各国の軍に制式採用される。ちなみにスキューバの生みの親クストーが映画『沈黙の世界』でこのモデルを着用したことも、本作が注目されるきっかけになったという。

 その後もダイバーズは続々と登場する。1957年にオメガ「シーマスター」ブライトリング「スーパーオーシャン」を続けざまに発表。どちらも防水性は200mを確保しており、いっそう深海に適したハイスペック仕様へと進化した。さらに'59年にはジャガー・ルクルト「メモボックス・ディープシー・アラーム」を発表する。これは世界初のアラーム機構を搭載したダイバーズだった。

 こうしてざっと歴史を辿ると、後に名作と謳われ、現在も人気シリーズとして続くダイバーズは、すでに多くが1950年代に誕生していたことがわかる。そして、その背景となったのは、ジャック=イブ・クストーらによるスキューバの発明と普及だったことも押さえておきたい。

自ら開発した潜水具「アクアラング」を装着し、海洋調査船カリプソ号の甲板に立つジャック=イブ・クストー。水中考古学の先駆者であり、スキューバダイビングの父でもある自ら開発した潜水具「アクアラング」を装着し、海洋調査船カリプソ号の甲板に立つジャック=イブ・クストー。水中考古学の先駆者であり、スキューバダイビングの父でもある

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※表示価格は本書発売時(2021年7月28日)の税込み価格です

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