説明会やその他の情報提供機会で、M&Aの目的やビジョンについて繰り返し伝えれば、M&Aの必要性について理解することはできます。ですが、それはあくまでも人から伝えられた借り物の言葉です。それだけで心の底から納得できる、というものではありません。人は情報としてインプットされた言葉の意味を自分なりに解釈し、自分自身の言葉として「語り」、自らが発した言葉を自分自身で聴くことで、初めて本当の意味で腹落ちするものです。新しい考え方や価値観に対して、こうした自分なりの意味づけを促すのが、互いに語り合う「対話」が持つ機能です。

 組織づくりにおいて、「対話」は重要な役割を果たします。参加者が組織の状況に対する自分の想いを率直に語り、共有することで、未来をどうしていくかについて「みんなで考える土台」をつくることができるのです。

「対話の場」を設けるにしても、その目的や対象者によって、いくつもの選択肢が考えられます。図表2に、「対話の場」で扱うテーマの例をまとめました。

 全社・部署・チームといった範囲の視点と、扱うテーマの抽象度・具体度によっても、「対話の場」の進め方は異なってきます。場合によっては、一つの「対話の場」で、複数のテーマが扱われることもあるかもしれません。「対話」の目的と参加者、かけられる時間などに応じて、それぞれの場で扱うテーマも異なってきます。期待する成果を上げるために、最適なデザインを行う必要があります。

 では実際に、M&Aの現場ではどの程度、「対話」が行われているのでしょうか。そしてそれは、どのような成果につながっているのでしょうか。データをもとに、PMIにおいて効果的な「対話」について探っていきたいと思います。

M&A後の組織・職場づくりに、なぜ「対話」が効果的なのか?

『M&A後の組織・職場づくり入門』編著者

齊藤光弘 (さいとう みつひろ)

合同会社あまね舎/OWL:Organization Whole-beings Laboratory代表。組織開発カタリスト。企業における組織づくりや人材育成の領域で、現場支援と研究を融合させ、メンバーが持つ想いと強みを引き出すためのサポートに取り組む。組織開発や人材開発、コーチングといった手法を有機的に組み合わせながら、組織全体の変容と個の変容を結び付け、支援の実効性を高めている。M&Aのプロセスをサポートするコンサルティングファームのコンサルタント、事業承継ファンドのマネージャーを経て、東京大学大学院にて中原淳氏に師事し、組織開発・人材開発の理論と現場への応用手法を学ぶ。2020年3月まで國學院大學経済学部特任助教を務めるなど、大学でのリーダーシップ教育、アクティブラーニング型教育の企画・実施にも関わる。著書に『M&A後の組織・職場づくり入門』(ダイヤモンド社)、『人材開発研究大全』(東京大学出版会)がある。