PMIになぜ「対話」が効果的なのか

 まずは、M&A後の企業で、どの程度まで対話が行われているのかを確認してみましょう。

 図表3に示したように、M&A後に「組織的に対話が行われている」と回答した企業は、おおむね36〜42%程度です。設問のうち、「M&Aについて想いや不安を語り合うことがあった」「M&A後の未来について語り合うことがあった」と回答した割合はおおむね42%程度です。一方で「M&Aがもたらす新しい可能性について語り合うことがあった」は約36%と、他の対話に比べて実施している割合が少なくなっています。

 60%近い組織では、M&Aについて話す機会がつくられないまま、PMIのプロセスが進んでいることになります。自分の想いを表立って同僚と話す機会が得られないまま、業務に取り組まざるをえない状況になっているのです。

●M&A後の「対話」による成果

 社員同士の対話は何をもたらすのでしょうか。図表4のとおり、M&A後に組織的な対話の時間を持つことで、M&Aの必要性を感じる社員の割合を高めたり、所属する組織への愛着を高めることができます。

 M&A直後は情報も少なく、「この先どうなるのだろう」と、誰もが大きな不安に襲われます。なかには、不安な気持ちを抱え込み、将来を悲観して離職してしまう人もいます。

 対話の場をつくり、こうした不安な想いを率直に語り合うことで、個々が置かれている状況を、自身の言葉で意味づけ、言語化し、共有することができるようになります。また、他の人の意見に耳を傾けることで、M&Aや新しい組織に対する解釈に幅が生まれるとともに、自身の思いがクリアになり、現状を受容しやすくなります。

 他の人からも同様の意見が出てくれば、自分一人だけが苦しんでいるのではないのだと、共感が生まれ、個人が抱える悩みや不安を組織全体の課題として扱いやすくなり、解決に向けた動きを導くきっかけにすることもできます。

 また、M&A後の未来について、変化の先に何があるのかを言葉にしてみることで、将来の展望を持つことができるようになります。組織に残るメリットを確認できれば、変化に対しても前向きに向き合うことができるようになります。お互いの想いを語り合うことは、物事を前向きに変えていくエネルギーになるのです。

M&A後の組織・職場づくりに、なぜ「対話」が効果的なのか?

『M&A後の組織・職場づくり入門』編著者

中原淳 (なかはら じゅん)

立教大学経営学部教授。立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。博士(人間科学)。1998年東京大学教育学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科で学び、米マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学准教授などを経て現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発・リーダーシップ開発について研究している。著書に『M&A後の組織・職場づくり入門』『組織開発の探究』(共著、HRアワード2019書籍部門・最優秀賞受賞)『研修開発入門』(以上、ダイヤモンド社)、『職場学習論』『経営学習論』(以上、東京大学出版会)ほか多数。

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