日本企業のM&Aが急増しており、2021年は過去最多の4280件を記録した(レコフデータ調べ)。しかし、M&Aの成功率は思いのほか低く、その原因の多くはM&A後の統合プロセスにおける「人と組織」の問題にあると言われている。この連載では、人材開発・組織開発の専門家が著した最新刊『M&A後の組織・職場づくり入門』(齊藤光弘・中原淳 編著、東南裕美・柴井伶太・佐藤聖 著、ダイヤモンド社刊)の中から、人と組織を統合する際の課題やアクションについて紹介していく。今回のテーマは、M&A後の組織づくりで「対話の場」をどうデザインするか?(ダイヤモンド社 人材開発編集部)
「対話」による組織づくりとは?
前回の連載では、M&A後の統合(PMI)プロセスにおける「対話」の重要性についてお伝えしました。では、組織内における「対話の機会」をどのようにしてつくっていけばいいのでしょうか。対話による組織づくりには、図表1の「組織開発に共通する3つのステップ」を意識しながら進めていくことがポイントとなります。
ステップ1の「見える化」では、組織の抱える問題・課題の可視化を行います。それぞれが抱えるM&A/PMIにまつわる悩みや不安な気持ちを可視化するというわけです。見える化の方法は組織診断のようなツール、アンケート、あるいは面談による聞き取りなどを通じて行います。
ステップ2の「ガチ対話」では、可視化されたテーマについて関係者一同で真剣勝負の対話を行います。M&Aに対するネガティブな想いや、買った側の企業・社員に対する普段感じている想い、業務を進めるなかで感じている課題感など、センシティブなテーマを扱うことも多くなるかと思います。こういった普段は語りにくいテーマを率直に語るからこそ、組織やチームのなかに変化が生まれてきます。ただ、センシティブなテーマであるほど、ファシリテーションが難しくなるのも事実です。ファシリテーションや組織づくりに関する知識やスキルを持ったメンバーが、その場をファシリテートするなど、十分な準備が必要です。外部専門家に依頼することも一案です。もし予算の確保が難しければ、社内の専門家や、組織づくりを担う部署のメンバーにサポートを仰ぐのもいいかもしれません。
対話の場をつくる際は、「まずはお互いの声に耳を傾ける」「お互いの意見は尊重した上で、反対の意見も述べる」など、対話の場で参加者が意識したいルールを事前に共有した上で、「心理的安全性」が感じられる雰囲気(*1)のなかで話ができるように、場をつくっていきます。
ステップ3では、対話によって見出された「未来づくり」を関係者一同で共有します。そして、関係者間で合意された、未来をつくるためのアクションを明確にするとともに、いつまでに、誰が、何をするのかを見える化して、進捗を管理します。対話を通じて生まれてきた想いや行動の芽を、そのままにするのではなく、しっかり進捗管理をすることで育てていきます。「いろいろ話せて楽しかったね」だけで終わる場にはしないことが重要です。